生活者理解を深めるリテールサポートとID-POS活用
三菱食品は、国内最大級の食品卸売業として、メーカーと小売をつなぐ「ハブ」の役割を果たしてきた。全国に張り巡らせた物流網を背景に、数多くの食品を取り扱い、店頭に並ぶ商品そのものだけではなく、売り場づくりも長年支えている。
食品の卸として培ってきたメーカー・小売、両方の視点や生活者の購買行動理解の知見を活かし、三菱食品が取り組んでいるのが「リテールサポート」だ。これまで蓄積してきたノウハウやナレッジを駆使し、小売・メーカーと共に、より良い購買体験をつくることに力を注いできたと望月氏は語る。
「その取り組みの基盤となっているのが、小売業様のID-POSデータです。購買実績を分析することで、生活者がどのような組み合わせで商品を購入しているのか、どのタイミングで需要が高まるのかを可視化できるようになります。食品卸売業は小売でもなく、メーカーでもない中立な立場であるからこそ、商品カテゴリーを横断してデータを眺められる立場にあります」(望月氏)
三菱食品 マーケティング開発本部 事業開発グループ 分析ユニット ユニットリーダー 望月 勇貴 氏
また望月氏は、三菱食品は卸という立場ならではの視点で、メーカーや小売が単独では見落としがちなインサイトを提供できると説明する。実際の取り組みは多岐にわたる。例えば、購買履歴に基づく「生活者クラスター」を構築し、特定の嗜好や行動パターンを持つ層に合わせた販促の提案。さらには併買傾向をデータとして可視化し、それらを活かして関連商品の棚割を工夫することによる“購買を自然に促す仕掛け”を施すという。
また、購買条件を満たす顧客に限定したターゲットクーポンを発行し、より効率的に来店動機を高めるといった施策も展開している。こうした施策はいずれも、メーカーと小売の売上向上に直結するだけでなく、生活者にとっても「必要な商品が適切なタイミングで手に入る」利便性をもたらすことができる。つまり、小売・メーカー・生活者という三者間のWin-Win-Winな関係を構築できる可能性があるのだ。
望月氏は「ID-POSは従来型のマスプロモーションでは捉えきれない細やかな生活者の動きの捕捉を可能にします。言い換えれば、ID-POSに基づく提案は、より生活者起点で購買を動かす販促企画を立案することができるポテンシャルがあるのです」と強調した。
三菱食品は「DDマーケティング」で売り場と情報の流れを融合させる
とはいえ、これまでのリテールサポートは主に“店内”での打ち手にとどまっていた。しかし、本当の意味での「リテールサポート」を実現するためには、来店前の生活者の情報接点から分析することが必要だと望月氏。来店前にこそ大きな課題が潜んでいると話す。
「小売・流通業界では事業体が縦割りで動いているため、せっかく広告や販促に投資した商品が棚に並ばない、あるいは生活者が事前に見た商品を店頭で見つけられないといった“機会ロス”が頻発します。モノの流れと情報の流れが同期していないことが、需要の取りこぼしを生んでいたのです」(望月氏)。
この状況を変えるために、三菱食品が掲げたのが「DDマーケティング」だ。モノの流通に加え情報流にも関与し、両者を同期させることで、商品が本来持つ価値を生活者に確実に届ける取り組みになると考え、象徴的な施策としてID-POSデータとデジタル広告を組み合わせた「コーバイコネクト」という新たなソリューションを開始した。
「コーバイコネクト」は、従来の広告が「認知」で終わりがちだった課題を超え、広告接触と購買行動を直接結びつけて効果を測定できる仕組みを備えている。例えば、ある飲料メーカーが新規ユーザー獲得を目指す場合、購買データから未購買層を抽出し、その層に向けて最適な広告を配信する。その後、購買実績を追跡することで広告がどれだけ購入につながったのかを検証。ID-POSと連動しているからこそ、成果指標を「購買」という最終行動で可視化できるというものだ。
「この『コーバイコネクト』の仕組みによって、広告主は費用対効果を明確に把握でき、小売業様は集客や売上の向上につなげられるようになります。さらに生活者にとっても、自分に合った商品との出会いが増えるという『三方良し』の成果が期待できるのです。DDマーケティングは、これまで分断されていたモノと情報の流れを結び直し、需要を新たに掘り起こすアプローチだと考えています」(望月氏)。
100年企業が描く未来のマーケティング
講演の最後に望月氏は、三菱食品が推進する「DDマーケティング」の本質について語った。モノの流れと情報の流れを融合させることで、従来の小売・流通が抱えていた「機会ロス」を解消し、生活者に新しい買い物体験を届ける挑戦は、小売の立場から見れば、生活者接点を強化し、売上拡大や来店動機の向上につなげられると語る。
また、メーカーにとっては、広告接触と購買行動を結びつける仕組みによってブランド認知を高め、購買を押し上げる有効な打ち手となる。そして生活者にとっても、自分に合った商品や有益な情報と出会える機会が増える。まさに三者にメリットをもたらす構造だ。しかし、その構造を実現するうえで最も重要なのが「ターゲティング」の精度だと望月氏は続ける。
「ID-POSデータを活用すれば、これまでの購買行動から未購入層や特定カテゴリーの愛用者を抽出し、その人々に最適な情報を届けることができます。生活者は自分の嗜好やライフステージに合った商品と自然に出会い、納得感のある購買体験が生まれるのです。それにより、メーカー様は投資効率の高いプロモーションを実現でき、小売業様は店頭での購買機会を逃さず売上につなげられるという仕組みです」(望月氏)。
望月氏は、こうした「モノと情報の融合」によって購買の前後をシームレスに結び、生活者が感じる違和感を解消することこそが今後のリテールマーケティングの鍵だと強調した。単に商品を並べるのではなく、生活者の心に届く形で商品価値を伝える。その取り組みが「DDマーケティング」であり、データとデジタルを通じて新たな購買体験を創出する挑戦だと語る。卸売業という立場から始まったこの実践で、これからのリテールデータ活用に新しい方向性を示していきたいと語った。

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