行政案件の公示と共に送られてくる仕様書や関係書類の束を前に、思わず天を仰いだ経験のある営業担当者の方は少なくないと思います。すべてを真面目に読み込もうとすれば、膨大な時間と労力がかかるだけでなく、本当に重要なポイントを見失いかねません。
本記事では、行政案件だけで500件以上の実績を持つ株式会社コヨーテコヨーテの今村由美子氏に、行政向け提案における必要書類を効率的かつ正確に読み解くための、3つのコツを教えていただきました。
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コツ1:失格を回避する「流し読み」
提案内容の優劣を競う以前に、最も避けなければならないのが「ルール違反による失格」です。そのため、書類読解の最初のステップは、失格に繋がりかねない基礎事項を漏れなく把握することにあります。
まず、送られてきた書類一式に、一度すべて目を通します。目的は内容を熟読することではなく、「どこに何が書かれているか」という全体像を掴み、絶対に守るべきルールを見つけ出すことです。
特に今村氏が「最初に必ず把握する」と強調するのが、「提案書作成要領」です。ここには、使用するフォントのサイズやページ数、提出物の様式といった、提案書の体裁に関する厳格なルールが記載されています。例えば、「12ポイント以上で作成」という指定を見落とし、すべてを10.5ポイントで作り上げてしまった場合、後からの修正には想像を絶する手間がかかります。こうした致命的な手戻りを防ぐためにも、作成要領の確認は、何よりも優先すべきタスクです。
また、「評価基準」も最初に目を通すべきポイントです。価格点と技術点のバランスや、各評価項目の配点を確認することで、この案件が価格重視なのか、それとも提案内容の創意工夫を求めているのかがわかり、リソースをどこに注力すべきかの戦略を立てる上で重要な指針となります。
この「流し読み」の段階では、一語一句を理解しようとせず、マーカー片手にキーワードや重要そうな日付、様式指定などをチェックしていくくらいのスピード感で問題ありません。後の作業の土台となる「守るべきルール」を確実に押さえることが重要です。
コツ2:実施概要から、事業の「心臓部」を掴む
失格のリスクを回避できたら、次はいよいよ提案内容の核心に迫ります。大量の書類の中から、その事業の「心臓部」、すなわち核となる部分を見つけ出し、集中的に読み込みます。
多くの場合、事業の核となる内容は「仕様書」の中に記載されています。仕様書は論理的な構造になっていることが多く、「目的」「全体概要」「各事業の概要」といったセクションの後に詳細が続くのが一般的です。
ここで熟読すべきは、詳細部分ではなく、まず「全体概要」や「実施概要」です 。ここには、行政側がこの事業を通じて「何を」「なぜ」達成したいのか、という本質的なゴールが書かれています。ここを深く理解することで、単に仕様書に書かれた作業をこなすだけでなく、「事業の成功に貢献するためには、どのような提案をすべきか」という、一歩踏み込んだ視点を持つことができます。
さらに今村氏は、行政の案件は政策や上位計画に基づいて実施されるため、担当者が本当に実現したい「隠れた真意」が存在することがあると指摘します。この真意を読み解くヒントも、多くはこの実施概要の中に隠されています。なぜこの事業が必要なのか、その背景にある社会的な課題は何かを考えながら読むことで、評価者の心に響く提案のストーリーを構築する糸口が見えてくるでしょう。
コツ3:「お約束部分」と「詳細」は軽く読む
時間は有限です。提案の骨子を練るという最も重要な作業に時間を割くためにも、優先度の低い情報は潔く「軽く読む」と割り切ることが重要です。
例えば、毎回同じような内容が書かれている契約書の雛形や、細かい技術要件が延々と続く「要件定義書」などは、この段階では軽く目を通す程度で十分です 。特に要件定義書のように膨大な情報量がある書類は、細部にとらわれず、まずは担当部署や協力会社に分担を依頼し、「できる・できない」の判断を任せると効率的です。
ただし、「軽く読む」と「全く読まない」は違います。今村氏曰く、普段はお約束の文言が並んでいると思っている箇所に、その案件特有の重要な一文が追加されている可能性もゼロではありません。ここで、コツ1で解説した「最初の全体流し読み」が活きてきます。一度全体に目を通しておくことで、「この部分はいつもと違うな」という違和感を察知しやすくなるのです。
まとめ
行政向け提案における大量の書類は、多くの営業担当者にとって大きな負担です。しかし、やみくもに立ち向かうのではなく、戦略を持って読み解くことで、その負荷は劇的に軽減できます。
今回ご紹介した3つのコツは、
1. 失格回避の「流し読み」:まず全体に目を通し、作成要領などの守るべきルールを把握する
2. 本質を掴む「熟読」:仕様書の実施概要など、事業の核となる部分を集中的に読み込む
3. 効率化のための「軽読」:契約書の雛形や詳細な要件定義書など、優先度の低い部分は後回しにする
です。この「メリハリ」を意識するだけで、時間と心に余裕が生まれ、提案内容を練り上げるという最も重要な業務に集中できるようになります。ぜひ次の案件から、ぜひこの読解術を実践してみてください。
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