福岡県柳川市の「柳川藩主立花邸 御花(おはな)」は、江戸時代に柳川藩主だった立花家のお屋敷を、現在も末裔が守り続けている料亭旅館です。国指定の名勝の見学のみならず、宿泊、食事もできる珍しい施設として観光客を魅了しています。そんな御花に2020年のコロナ渦の最中に入社したのが、デザイナーの竹中逸人さんとマーケターの金原梨奈さん。二人とも福岡県外から移住転職してきました。「横文字の職種の人を初めて採用した」「何をする人たちなのか、最初はまったくわからなかった」と語る立花家18代で株式会社御花の代表取締役社長 立花千月香(ちづか)氏に、混乱のなか二人を同時採用した理由、そして期待した役割を伺いました。
コロナ渦に不安が広がるなか、新たな職種を採用したわけ
──どのようなきっかけでお二人を採用したのですか?
立花
:私は2015年に先代の父から料亭旅館「御花」を受け継ぎ、代表取締役に就任しました。料亭旅館として創立してから半世紀をとうに過ぎていましたし、時代が移り変わるなか、同じことをやり続けることへの不安は確かにありました。でも、毎日それなりににぎわっていて。目の前のお客さまをおもてなしするのに精一杯。未来を考える余裕はありませんでした。
あるとき、人材紹介会社の方のインタビューを受けました。そのなかで、「もし採用するなら、どういう人が欲しいですか」という質問があって。「一緒に未来をつくってくれる人」と答えたんです。そうしたら、「うちにぴったりな登録者がいます」と。
営業上手ですよね(笑)。「もし」と聞かれたのでお答えしただけなのに。とくに採用する計画はなかったのですが、「絶対に会ってみた方がいい」とおすすめされ、何人かとオンライン面談をしてみました。そのなかに、デザイナーの竹中とマーケターの金原もいました。2020年の年明けのことでした。
──2020年ということは、その後すぐコロナ渦に入っていったわけですね。
立花
:そうなんです。創業以降初めて休館を迫られるという未曽有の事態でした。私たちは存続できるだろうか、この業界はどうなってしまうのだろうと、ぼうぜんとしてしまって。人材採用なんてやっている場合ではありませんでした。でも、私は、むしろ新たな人材を入れることを決めたのです。これまでは地元採用・同業種からの転職がメイン。また調理師や接客スタッフ、旅行会社向けの営業職など既存職種の採用ばかりで、デザイナー・マーケターの採用は初めてでした。