官民連携で家庭の脱炭素に挑む 大阪・兵庫・奈良・京都・横浜と企業が進める「みんなで減CO2プロジェクト」

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、全国の自治体で脱炭素の取り組みが加速している。しかし企業が排出するCO2の削減に比べ、家庭のCO2削減は進みにくい。義務付けが難しく、環境問題を自分ごと化してもらいにくいためだ。そうした中、大阪府・兵庫県・奈良県・京都府・横浜市は、日本総研が中心となって組成しているCCNCが推進する「みんなで減CO2プロジェクト」に参画。行政・企業・教育が一体となって、日常の「買い物」という行動を起点に生活者の行動変容を促す新たな挑戦が始まっている。

イメージ ロゴ カーボンニュートラル

写真 人物 奈良県 環境森林部脱炭素・水素社会推進課 主幹 岩田敏尚氏、大阪府 環境農林水産部 脱炭素・エネルギー政策課 課長補佐 和田峻輔氏、兵庫県 環境部 環境政策課 政策班主幹(学習・活動支援担当)中安祐介氏

(左から)奈良県 環境森林部脱炭素・水素社会推進課 主幹 岩田敏尚氏、大阪府 環境農林水産部 脱炭素・エネルギー政策課 課長補佐 和田峻輔氏、兵庫県 環境部 環境政策課 政策班主幹(学習・活動支援担当)中安祐介氏

家庭のCO2削減をどう進めるか 課題を解決するきっかけにする

─「みんなで減CO2プロジェクト」はメーカーや小売が一体となって“脱炭素”と“販促”を実現するものです。自治体として参画したきっかけは何だったのでしょうか。

和田:大阪府は2019年に「2050年二酸化炭素排出量実質ゼロ」を表明し、2030年度の目標を定め、取り組みを進めています。事業者向けにはCO2の削減に関する届出制度がありますが、家庭向けは啓発以外なかなか決め手がない状況でした。“どのように脱炭素に向けて動いてもらうか”が最大の課題だったんです。そんなときに「みんなで減CO2プロジェクト」のお話をいただきました。このプロジェクトは、“買い物”と“教育”の双方からのアプローチを通して、消費者の脱炭素の意識・行動変容を目的としていますよね。まさに、府の課題を解決する取り組みだと感じ、参画を決めました。

中安:兵庫県でも、これまで脱炭素に向けイベントなどで啓発を進めてきましたが、どうしても意識の高い層にしか届かないことが課題でした。脱炭素には、節約もつきものということから“我慢”のイメージも強く、関心を持たない県民や層に入り込むことは難しく感じていました。大阪府さんと同じく、家庭そのものにアプローチできるような仕組みや入り口を求めていたということです。このプロジェクトなら、そのヒントが見えるのではないかと思い、参画しました。

岩田:奈良県も同じく、家庭にどうCO2削減に取り組んでもらうかが課題です。奈良県は家庭部門の排出割合が全国平均より高く、約3割にのぼります。脱炭素の取り組みを進めなければならないものの、行政だけでは県民の関心を引きつけるには限界があります。私たちとは異なる視点を持つ民間企業と協働することで、生活者の目線に立った“仕掛け”が実践できるのではないかと思いました。「みんなで減CO2プロジェクト」は教育と販促を融合させるアプローチが新鮮で、まさにその“仕掛け”によって脱炭素を「自分ごと化」として捉える絶好の機会を生み出す企画だと感じますね。

─各家庭で脱炭素の取り組みを進めてもらうためには、行政だけではなく民間企業の力も重要だと感じていたのですね。

中安:そうですね。行政としても脱炭素は重点的に取り組んでいますが、なかなか浸透させることが難しいのが現状です。「みんなで減CO2プロジェクト」では、生活者が日常的に行う“買い物”をひとつの起点として、脱炭素に向けた行動変容を促しています。環境に配慮している商品を、普段から足を運ぶ売り場で見ることも、大きな価値があると思っています。見えるからこそ、脱炭素の啓発メッセージも伝わりますし、そのメッセージを見た生活者の購買や意識変容につながる。このスキームは、行政だけではなし得ません。脱炭素に取り組むにあたってとっつきやすい入り口を探していた我々にとって、民間企業と組めることはありがたく感じています。

和田:たしかに、これまでの啓発は“イベントで伝える”や“教材を配布する”といった形にとどまることが多く、いわば一方通行的にコミュニケーションすることが多かったです。ですが、「みんなで減CO2プロジェクト」では教育と店舗、つまり学びと購買が直接結びつくのが大きな特徴ですよね。子どもが学び、その学びを家庭で話題にし、さらに店頭での購買行動に結びつく。その結果が売上や購買データとして可視化できるのは、行政にとっても非常に価値があります。

岩田:以前、「みんなで減CO2プロジェクト」に参画している小売とメーカーの方々から課題やその解決までのプロセスなどについて伺う機会があったのですが、行政だけでは知ることができなかった視点を持つことができ、“県民にどう伝えるか”を考えるヒントになりましたね。行政・企業・教育が一体になることの意義を実感しました。

民間企業と組むことの意義 行政にできないことを可能に

─2025年度の「みんなで減CO2プロジェクト」では、大阪府・兵庫県・奈良県・京都府・横浜市の小学生を対象に自由研究という形で、エコラベルや脱炭素に触れる取り組みを推進しています。

岩田:奈良県では、今年、「みんなで減CO2プロジェクト」の取り組みの一つとして、「買い物を通じた減CO2行動」をテーマとした出前授業を小学校で実施しました。子どもたちの真っすぐで真剣なまなざしから本プロジェクトの意義と可能性を改めて感じたところです。奈良県ではこれまでも教育委員会と連携し環境教育を進めてきましたが、ここに、県民にも馴染みが深いメーカーや小売が加わり、脱炭素に向けて一緒に取り組めることは心強いです。また、今回の自由研究は出張授業よりも参加する児童が多いので、どのような結果になるのか今から楽しみです。

中安:民間企業との連携により、これまで接点の薄かった層へもアプローチできる可能性を持っていますし、脱炭素の推進につながる一歩になるのではないかと期待しています。今回は自由研究の一環として、エコラベルハンター2025を県内の全小学校へ周知しました。兵庫県の課題である“家庭部門のCO2削減”につながる一歩になるのではないかと思っています。

和田:大阪府は昨年度から参画し、CO2モンスターのイラストコンテストを実施しました。約1,400件の応募があったことも大きな成果でしたが、子どもが描いた絵を家族で見に来る、その会話が家庭での脱炭素行動のきっかけになっていることに意義を感じましたね。今年度の自由研究は、エコラベルを知り、店頭に足を運び、環境配慮型の商品を選ぶという行動が“自然な選択”として根付くきっかけになると思います。価値ある行動変容の一歩になるはずです。

中安:そうですね。これまでは“知識”の提供にとどまっていましたが、「みんなで減CO2プロジェクト」は、学びの先の“行動”につなげるきっかけになると考えています。ラベルを見て環境を意識する家庭が増えれば、消費全体の傾向も変わっていくと思います。

岩田:まさに、おっしゃる通りですね。この取り組みを始めたばかりですが、行政が“ハブ”となって教育現場と企業をつなぐことで、取り組みの広がりが大きくなることにワクワクしています。脱炭素を“自分たちの暮らしのこと”として根付かせていきたいです。

─さまざまな可能性を秘めているのが「みんなで減CO2プロジェクト」だと感じます。皆さんはこのプロジェクトに何を期待し、どう貢献していきたいですか。

和田:環境意識があるだけでは行動は変わりません。行動につながる仕掛けを行政・企業・教育で共につくっていく必要があると感じています。今後も多様なステークホルダーと連携し、さらに深化させていきたいです。

中安:他の自治体や企業にも参加してほしいですね。仲間が増えれば成果も広がりも大きくなります。「みんなで減CO2プロジェクト」が広がりを見せていくことを期待しています。

岩田:奈良県で得た知見を共有するとともに、他県からも学びながら発展させたいですね。地域や世代を超えてつながる取り組みになるように力を入れていきます。

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株式会社日本総合研究所 創発戦略センター グリーン・マーケティング・ラボ

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