炎の最適化「どう燃やすか」の技術
薪と火種が見つかったら、次は燃やし方です。ショート動画には、その短い時間の中で視聴者の心を掴むための、確立された技術が存在します。
テクニック③「5つの愛フレーム」で燃え方を設計する
僕が企画時に必ず使うのが、「5つの愛(I)フレーム」という独自のチェックリストです。これは、生活者のどんな興味(Interest)を刺激すれば心が動くかを体系化したもので、焚き火で言えば、空気の通り道まで計算した「よく燃えるかまど」を設計するようなものです。
1. 人への興味(Interest in people):誰が語るか?
2. モノへの興味(Interest in things):何を語るか?
3. 物語への興味(Interest in the story):どんな物語で語るか?
4. 型への興味(Interest in format):どんな流行の型で語るか?
5. 作り方への興味(Interest in how to make):どんな作法で語るか?
これらの問いに答えることで、企画はより立体的で、魅力的な炎となって燃え上がります。ショート動画の企画を作ったらこの5つが抜け落ちていないかをチェックします。逆に、人気のある動画やアワードの受賞作品はどういったところがこの5つに当てはまっているのかをデコンする練習もしています。意外と腹落ちしやすく、手っ取り早く習得しやすいフレームです。
テクニック④動画の「尺」は、センスで決めるものじゃない
動画の尺は目的(ファネル)に応じて使い分ける、戦略的な“武器”なんです。僕なら、こう考えます。
とにかく、脳に焼き付けたいなら15秒広告。理屈は一切不要。「なんだこれは!?」という本能的な感情(WOW)だけを撃ち込み、スクロールする指を止め、脳に一瞬の焼き付き(バズ・インプレッション)を作ること。それが15秒の全てです。
例えば、化粧品は難しい成分より、「うわ、キレイ…」という“吐息”が漏れる一瞬の映像美に全振りする。食品は能書き不要、「ザクッ!」という“咀嚼音”とシズル感で、胃袋を直接掴みにいく。ガジェットは「え、もう!?」という“驚きの声”が上がるほどの簡単さを、タイムラプスで見せつける。インパクトに驚き、ついリピートしてしまった…なんてコメントを誘発するのも1つの手です。
「なるほど」と思わせ、引き込む効果を狙うなら30秒広告が有効です。15秒でこちらを振り向かせたら、次は「なぜ、これが凄いのか」という納得感をプレゼントする時間です。WOW(感情)にWHY(理由)を添えることで、視聴者は初めて「他人ごと」から「自分ごと」へと、こちら側に一歩近づいてくれます。
化粧品:15秒で見せた「結果」に対し、「〇〇だから」という「原因」を2〜3つ、テンポ良く見せることでロジックと感情を繋ぐ。
日用品:「ビフォー&アフター」に加え、短いユーザーの声(「正直レビュー×驚くほど簡単」)という“証言”を挿入し、信頼の橋を架ける。サービスを紹介したいときは「あなたの悩みを解決する3つの機能」のように、“処方箋”として特長を提示し、自分ごと化を強烈に促す。
60秒は、心を動かし、「ファン」という名の共犯者にします。ここまで来たら、もうモノを売ろうとしてはいけません。ブランドが持つ物語(ストーリー)や哲学を伝え、視聴後の「心の温度」を1度でも上げることに集中します。深い信頼は、理屈ではなく、物語への共感からしか生まれません。
自動車「この一着を使った着回し7days」で、購入後の“着る楽しみ”という価値を提案する。
ファッション:「この一着を使った着回し7days」で、購入後の“着る楽しみ”という価値を提案する。
BtoBサービス:開発者の情熱や導入企業の成功事例をミニドキュメンタリー風に語り、“作り手の体温”を伝える。
といった具合です。目的(ファネル)に応じて「武器」を使い分ける。ただそれだけ、しかしそれが、ショート動画時代を生き抜くブランドの鉄則です。
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