「出会い」と「掛け算」が、新しい価値を生み出す
橋口:企画の最後にチェックを入れるアリバイ作りのような関わり方ではありません。企画の初期段階から当事者や専門家にチームに入ってもらい、マジョリティには見えない「境界(ボーダー)」を可視化する。その上で、ボーダーのない理想の世界を描き、そこから逆算してクリエイティブを開発していくという手法を実践しています。
その具体例として、伊藤忠商事さんと実施した「君のなりたいものってwithバービー」という展示イベントがあります。これは、「なぜ人気職業ランキングは男女別なのだろう?」という素朴な疑問、つまり「当たり前を疑う」ことから始まりました。ジェンダーバイアスからの解放をテーマにした展示は、来場者数14,500人を突破し、大きな話題となりました。
阿部:私はDEIを「出会い」と「掛け算」だと捉えています。2017年からご一緒している「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」さんからたくさんのことを学んできました。このプログラムでは、視覚障がい者のアテンドの方に導かれて、純度100%の暗闇の中をチームで進んでいきます。視覚以外の感覚を研ぎ澄ませることで、見えないからこそ見えてくるものがある。これは、見える人と見えない人という異なる視点が出会うことで生まれる新しい価値だと考えています。
上記は2019年に制作をした新聞広告です。見えないことも、聞こえないことも、歳をとることも一見するとどうしてもネガティブに捉えられてしまうこともあるかもしれません。しかしながら、すごい力、能力に変えることができる可能性がある。その捉え方の転換をデザインし、社会に新しい視点を提示することも広告の持つ力であり、果たすべき役割だと信じています。
ダイアログさんを通じてJ-WAVEさんとも出会い、「ラジオは耳だけではなく目でも楽しめるはず」という思いから、手話通訳付きで同時配信する「サイレントラジオ」を実施しました。これらは、当事者の皆さんと一緒に作り上げていく「共創」のプロセスから生まれています。その掛け算の中から、誰も想像しなかったアイデアが生まれてくるんです。
知識と実践で学ぶ、未来を創るためのカリキュラム
阿部:昨年の第1期は、広告業界の方だけでなく、メーカーの社員、公務員、NPO職員など、本当に多様な方々が参加してくれました。参加者の方からは、「自分の中にあるバイアスに気づき、背筋が伸びる思いだった」「多様性という言葉が逆に垣根を増やしていると感じていたが、それを言語化してもらえた」といった嬉しい感想をいただきました。
橋口:DEIの流れって短期的なスパンで見ると、そろそろ終わるのではないかと感じることもありますが、講座では200年前くらいから話を始めています。200年、300年という大きな流れで見れば、この潮流は絶対に止まらないことが分かります。こういう話ってあんまり他では聞けないんじゃないかな。
阿部:今年のカリキュラムも全8回、3つのフェーズで構成されています。まず「Phase1:境界を知る」で、講義やワークショップを通じて自分の中のバイアスを可視化します。次に「Phase2:境界を超える」では、専門家をゲスト講師にお招きして、考えを吸収していきます。そして最後の「Phase3:未来を創る」では、皆さんに自身の今後の取り組みを発表していただきます。
橋口:私たちがこのスクールで一番やりたいのは、未来を創る「仲間」を増やすことです。実際に、昨年の受講生の方とは今、一緒に仕事をしています。
「これをやったら炎上するかな」とビクビクしながら判断するのではなく、「自分のやりたいこと」の軸や判断基準を持てるようになる。このスクールが、そのための第一歩になれば嬉しいですね。
阿部:職種や立場を超えて、お互いの視点を交換し、学び合えるプラットフォームにしていきたいと思っています。皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。
BORDERLESS CREATIVE SCHOOL 概要
| 開講日 | 10月21日(火)19:00-21:00 |
| 講義回数 | 全8回 ※原則隔週火曜に開催 |
| 開催形式 | 教室とオンライン、各回自由選択できるハイブリッド開催 |
| 定員 | 25名 |
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