IPRN AGM 2025で発表された欧州PRの好事例を解説する本コラム。第4回となる今回は、心に静かで深い余韻を残すPR事例を紹介します。
ロンドンを拠点とする在宅介護会社The Good Care Group(TGCG)と、英国西部の港湾都市ブリストルにメインオフィスを構えるPR会社、AMBITIOUSによるキャンペーン「Home Is Where The Heart Is(家は心が住む場所)」は、データと感情、そして人生の記憶がひとつに溶け合うような取り組みです。
このプロジェクトの象徴となったのは、英国の写真家キャロリン・メンデルスソーン氏によるビジュアル作品です。柔らかな光と深い陰影が映し出すのは、老いの現実ではなく、そこに宿る生の尊厳です。88歳のブライアン氏と68歳のアリソン氏——それぞれが自宅という舞台で過ごす日々が、感情的でノスタルジックな物語として静かに立ち上がってきます。退役後も無線通信を続けるブライアン氏の表情、季節の花を育て続けるアリソン氏の手。そこには「生きるとは記憶を重ねること」というメッセージが感じられます。
ブライアン氏(AMBITIOUS社提供)
アリソン氏(AMBITIOUS社提供)
キャロリン・メンデルスソーン氏(AMBITIOUS社提供)
「Home Is Where The Heart Is」では、これらの作品と、ブライアン氏、アリソン氏をはじめとする在宅介護サービスを受ける人々の「家」での日々をストーリーとして発信しました。
「エモさ」を支える綿密な調査とデータ
この美しいストーリーテリングは、偶然に生まれたわけではありません。AMBITIOUS社はまず2000人を対象にした全国調査を実施し、人々の「家」への意識と介護の実態を丹念に分析しました。
その結果、41%が「自宅は心の健康に欠かせない」と答える一方で、67%が「ライブインケア(Live-in Care)」という仕組みを知らないという矛盾が浮かび上がりました。ライブインケアとは、専門の介護者が被介護者の自宅に住み込み、24時間体制で必要な介護や生活サポートを提供するサービスです。「家にいたい」と多くの人が願いながら、その選択肢を知らない現実。AMBITIOUS社は、ここに社会的対話を生む余地を見いだしたのです。


