広告と音楽の幸福な関係——トラックメーカーSTUTSが語るCM音楽の裏側

10月17日から24日までの8日間で開催される虎ノ門広告祭。テクノロジーが発展し、メディアの様相が大きく変わり、コミュニケーションの構造と評価の仕方が大きく変わった現在。「広告」の置かれている状況も大きく変化したこの時代に、あえて“広告”についてさまざまな視点から議論していく。4日目には「あの話題曲が生まれる秘話 広告と音楽の幸福な関係 feat. STUTS」が開かれた。
 
同セッションでは、広告と音楽の関係性について、第一線で活躍するクリエイターたちが語り合った。登壇したのはトラックメーカー・プロデューサーのSTUTS氏、CM音楽を手がける音楽プロデューサーの山田勝也氏、クリエイティブディレクターの菅野薫氏と保持壮太郎氏。彼らが語る制作の裏側や、広告と音楽の新たな可能性とは。

「広告でこそ生まれる音楽」の魅力

セッション冒頭、保持氏は「広告でこそ生まれる音楽」をテーマに掲げ、CMのために作られた楽曲の魅力について語った。海外の事例として、バターブランドの「Lurpak」のCM が紹介された。
このCMでは料理音をリズミカルに活用した音楽表現が特徴的だ。山田氏は「海外ではサウンドデザインしたCMが多い」と指摘。「日本とは作り方が違う。音の専門家がリードして、SEと合わせて映像のリズムも計算されている」と解説した。STUTS氏はこの映像を初めて見たが、「いろんな音の要素が加わって作られているのが面白い」と感想を述べた。

続いて保持氏が解説したのが、映像にフィットした音楽ではなく、音楽を奏でる様子を映像化した作品だ。ブレイクビーツユニットのHIFANAが出演したNIKE「NIKE FREE RUN+」では、フレキシブルに曲がるシューズのソールを自在に操って不思議な音遊びを繰り広げる。STUTS自身がMPC(サンプラー)を始めるきっかけとなったHIFANAが出演していて印象に残っていたそうで、「こんな面白い音楽の作り方があるんだと衝撃を受けた」と当時を振り返った。

ガラケーの音を随所にサンプリングして制作

セッション中盤では、STUTS氏が手がけたNTTドコモのWebムービー「iモード卒業公演」の制作過程が明かされた。STUTS氏はこのCMのために、実際のガラケーの着信音や操作音を一つひとつサンプリングして楽曲を制作した。

STUTS氏はPCの画面を共有しながら、音楽制作ソフトのPro Toolsで曲の構造を解説。「携帯電話の電子音だけで音楽を作るのは難しかった」と振り返りながら、「ガラケーのD503iの音が特によかったので、メインボーカルとして使用した」や「足りない音は自分で用意したけど、当時の音色に寄せるために携帯電話と同じFM音源(周波数変調)の「DX7」(ヤマハが1983年に発売)というシンセサイザーを使用した」と制作の裏側を明かした。また、携帯電話の閉じる音をクラップ(拍手)に見立ててリズム要素として活用するなど、細部へのこだわりも披露された。

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セッション中に制作過程を再現して、MPCを叩くSTUTS氏

セッション中に制作過程を再現して、MPCを叩くSTUTS氏

「自分も中高生のときガラケーを使っていた。当時を思い出しながら作った」とSTUTS氏。保持氏は「デバイスが人と紡いできた思い出や歴史がフィルムになっていて、音楽もそこに込められた感情を大切に扱っている」と評価した。またSTUTS氏は「携帯電話の音をつないで音楽を作る機会なんてないから楽しかった」と振り返った。

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