広告業界の最前線で働くクリエイターは、日々どのような思考で仕事に向き合っているのか。そして、人を動かすアイデアはどのように生まれるのか。本稿では、9月25日に開催された学生向けイベント「アドタイ・フォーラムfor Students」で行われた2つのセッションをレポートする。1つ目は、電通の早坂尚樹さんと博報堂の月足勇人さんが、それぞれの仕事のリアルや醍醐味、学生時代の体験を語ったセッション。2つ目は、Queの仁藤安久さんが、就活から実務まで役立つ「アイデアの出し方」を実践的なワークショップと共に解説したセッションである。広告業界を目指す者にとって、その本質的な魅力と、これからの時代に求められる思考法が浮き彫りになる内容だ。
“広告の最前線で働くとは” 次世代クリエイターが語るリアル
左から順に、電通 早坂尚樹さん、博報堂 月足勇人さん
最初のセッションでは、電通の早坂尚樹さんと博報堂の月足勇人さんが登壇。クリエイターの働き方や仕事の醍醐味、AI時代における作り手の役割など、業界のリアルが語られた。
まず、早坂さんが担当した花王「家族と愛とメリット」の事例が紹介された。国民的ブランドである「メリット」が長年培ってきた「家族シャンプー」のイメージが薄れつつある、という課題から企画はスタート。広告制作は、クリエイティブディレクター(CD)をリーダーに、コピーライター、アートディレクター、PRプランナーなど数名のチームで行われた。
早坂さんは、企画の大きな方針として、「家族の物語の名作CM」はすでに多くの企業が手掛けており、レッドオーシャンであるという認識があったと語る。そこでCDの方針のもと、「似てないものをやろう」とチームで決め、感動的な家族の物語の定石である「リッチな実写映像」「有名な俳優」「感動的な音楽」のすべてを逆にし、実写ではなくイラスト、タレントではなくキャラクターを採用した。その結果生まれた、子供の日記のようなシンプルな表現が、逆に新しく見えたのではないかと分析した。
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コピーのインサイトは、自身の兄や友人の子育てといった実体験や、自分が子供だった頃の親の気持ちを想像することから見出したという。「必ずしも自分と関係のない状況でも想像していくのがコピーライターの仕事」だと早坂さんは語った。読後感を意識して「できることがまだ少しある。」と締めのコピーを最後の最後まで修正し書き足すなど、CDと何度もやり取りを重ねて一緒に完成させていった。

