11月5日に宣伝会議本社で開かれた「サイトリニューアル・カンファレンス」で、キノトロープ代表取締役社長の生田昌弘氏が、「CMSの“あるべき姿”を考える~30年の知見から語る、これからのリニューアルのカギ『CMSの活かし方』~」と題し、Webサイト制作におけるCMSの活用法について、長きにわたる経験に基づいた知見を披露した。
紙媒体の「先割り」の概念をWebに応用
30年以上前に紙媒体の世界からWeb業界に飛び込んだ生田氏は、当初、Web制作のあり方に衝撃を受けたという。「ひとりで組んで、原稿を入れて、画像編集まで行う。分業制で制作する当社が『流れ作業で作っている』と驚かれたほど」と当時を振り返る。しかし、紙媒体の制作で培った「完全先割り」という、レイアウトを先に決め、そこにコンテンツを配置していく手法は、Webの世界でも応用可能だと生田氏は考えた。
キノトロープ 代表取締役社長 生田昌弘 氏
「この業界に入る前から雑誌や書籍といった紙媒体の制作で培ってきた、コンポーネント(ブロック)単位でWebサイトを設計・構築するという手法を一貫して採用してきました。これは、CMSを使用しない場合でも運用を格段に楽にする考え方ですが、これからCMSを本格的に活用するのであれば、このコンポーネントという概念が絶対に必要になります」と生田氏は強調する。
スマートフォンの普及がもたらしたWebサイトの激変
生田氏は、まずWebサイトを取り巻く環境の激変について触れた。スマートフォンの登場により、人々の生活様式、そしてインターネットの利用方法が根本から変わったと指摘する。LINEのデータによれば、PCのみを利用するユーザーはわずか1%であり、大半がスマートフォンを日常的に利用している現状を鑑みれば、「PCサイトの最適化よりも、スマートフォンの閲覧体験を重視した設計が不可欠」と断言する。
また、BtoBの領域であっても、PCでアクセスするユーザーでさえ、スマートフォンのように縦長に閲覧する傾向があるため、グローバルナビゲーションのタップ率低下といった課題が生じていると警鐘を鳴らした。
コンポーネント(粒度)の威力
こうした時代の流れの中、Webサイトの制作にはどのような考え方が必要なのか。生田氏は「コンポーネント」という概念を取り入れるべきだと説く。「コンポーネント」とは、Webサイトを構成する最小単位の要素(エレメント)を組み合わせた「1つのパッケージ」であり、その「粒の大きさ」(=粒度)を指す。
例えば、タイトル、画像、本文といった情報が一つのパッケージになったものが、1つのコンポーネントとなる。これを組み合わせてWebサイトを制作することで、誰もが編集でき、運用が格段に楽になるという。
実際、CMSが単なる「更新ツール」に留まっているケースは少なくない。この場合、ページ単位で管理されており、1つのページを他の場所で流用することが難しい。しかし、コンポーネント単位でコンテンツを入力し、データベースに登録することで、CMSの真価が発揮されると生田氏は説明する。というのも、コンポーネント単位で管理されていれば、同じ情報を様々なページで、あるいは異なる表示形式(リスト表示、詳細表示など)で利用することが可能になるからだ。
「例えば、50店舗あるホテルの情報を入力しておけば、全店舗をリスト表示させることも、個別の店舗ページで詳細を表示させることもできます。1つのコンポーネントに対して3~5種類の表示形式を用意することも珍しくありません。これにより、一度入力したコンテンツをあらゆる場所で使い回すことができ、劇的な運用効率の向上につながります」と生田氏。
コンポーネントという概念をベースにしたCMS活用を浸透させることで、Amazonで商品情報をさまざまな形で「おすすめ」などに出せるように、情報の“使い回し”ができるというメリットを強調した。
大型CMS案件で培ったノウハウと事例
キノトロープでは、1000ページ、10万ページといった大規模なCMS案件に特化し、外注を一切行わず、社内で一貫して制作・運用を行ってきた。これにより、CMS活用のノウハウが社内に蓄積され、顧客へのメリットにもつながっているという。
講演では、具体的な事例として以下の3社のケースを紹介した。
A社:多数のドメインと事業部が乱立していた状況を、ブランドイメージの統一と運用効率化を目指し、まず現状分析と課題の整理を実施。検索エンジンからの集客状況の調査、サイトの使い勝手やセキュリティの調査、他社サイトとの比較、課題の聞き取りを踏まえ、戦略を立て直した。そして、バラバラになってしまっていたページがそれ以上バラけないようにするための制約を設けることで、コンテンツの共有と一元管理を実現した。
B社:10万アイテムを超える商品情報を効率的に管理するため、専用のデータベースを構築。きめ細やかな検索機能を実現し、顧客のニーズに的確に応えるWebサイトを構築した。
C社:約50店舗もの情報を、PCリテラシーが高くないスタッフでも容易に各所から更新・運用できるよう、CMSを導入。空き時間に直感的に操作できるシステムにより、運用効率を大幅に向上させた。
最後に生田氏は、CMSはコンテンツの一元管理を可能にするツールだが、その真価を発揮させるには、コンポーネントという「粒度」の概念が不可欠であると改めて説いた。コンテンツを一元管理できるのがCMSだが、単なる更新ツールとせず、いかにCMSの情報を“活用する”方向へと発想を転換できるかが、これからの企業のWeb運用を大きく前進させるカギとなるだろう。



