三菱食品は卸だけじゃないマーケティングパートナーへ
─三菱食品では、従来の食品卸業にとどまらず、リテールメディアや購買データ活用に踏み出しています。その背景から伺えますか。
草野:当社は創立100周年を迎えました。食品卸として、メーカーからお預かりした商品を小売に届ける「商品流」を支える役割を担ってきました。一方、課題に感じていたのは、メーカーが生活者に向けて広告などを発信する「情報流」と「商品流」との間には分断があることでした。
例えば広告(情報流)で認知を獲得しても売上に結びついていなかったり、キャンペーン期間中に情報をメディアで大々的に発信していても肝心の売り場には反映されていなかったり、といったことです。皆さんもご経験があるのではないでしょうか。
これを三菱食品では「商品流」と「情報流」の分断と呼んでいますが、それによって結果的に売上機会の損失が生じてしまうこともしばしばあるはずです。この両者の分断をなくさない限り、売上を最大化するための広告・マーケティング施策は実現できないのではないかと考えたのが、私たちがリテールメディア事業を始めた原点でした。
─つまり、三菱食品が目指すのは「商品流」と「情報流」を同期させ、購買までつなげる最適な方法を編み出すことなのですね。
草野:そうです。近年では、メーカーの広告・宣伝・マーケティング部門でもKPIとして“売上”や“購買”が掲げられるようになり、「認知」だけではなく「購買効果」をどう生むかが問われています。しかし、日本の小売業は生活者の認知データと購買データが分断されており、一気通貫でのターゲティングや検証が難しいのが現状です。だからこそ、三菱食品ではこの広告事業を通じ、購買起点で宣伝と販売の一貫したマーケティングの効率化とメーカーの個別課題解決を支援していきたいと考えています。
─情報流と商品流の分断は、組織構造にも影響していそうです。
草野:影響していると思います。これまでメーカーと小売が連携して行う施策は、販促部門や営業部門が窓口になり、ともに取り組むことが中心でした。しかし、その上流にある広告・宣伝部門、あるいは広告会社とは、実は十分に連携が取れていなかった取り組みも多いはずです。
営業部門は「特定流通でいかに売上を上げるか」、一方で広告・宣伝部門は「ブランド力を高め、長期的な成長」を目指す。目的もKPIも違うため、議論も上手くいかない取り組みも多いはずです。「情報流と商品流の分断」の要因であると考えます。
市川:当社は卸として、全国の小売業とのネットワークを持ち、売り場に近い位置で商品流通を支えてきました。草野の申し上げた課題に対し、卸として培ってきた基盤と購買データを通じて広告・販促をつなぐことで、メーカー・小売・生活者の三方にメリットをもたらすことができると考えています。
─まさに「卸だけじゃない三菱食品」という新しい姿ですね。
草野:はい。広告事業を通じて購買起点のマーケティングを推進し、メーカーの課題を解決する。同時に、メーカーの商品ブランドを通じて、生活者が“食の豊かさ”を感じられるきっかけをつくっていきたいと考えています。私たちは、食品卸としての信頼関係をベースに、データ・デジタル・広告を掛け合わせ、「商品流と情報流の分断」を解消するハブを目指しています。
三菱食品がマーケティングパートナーとして目指す成長戦略とその取り組み
購買起点で広告・販促を一貫したマーケティングを設計する利点
─三菱食品では、購買起点でマーケティング戦略を設計する意味をどう考えていますか。
草野:これまでのマーケティングは「認知をどれだけ取れたか」が主なKPIとして見られることが多かったと思います。しかし、広告投資の成果を本当に可視化するには、購買や来店といった“実際の行動結果”にまで結びつけて評価することも欠かせません。そういう意味では、購買起点でマーケティング戦略を描く必要性はこれからますます高まると考えています。
そして、そのような戦略を設計するために必要なのが、実購買や売上をもとにしたデータです。三菱食品が介在する意味があるのは、まさにこの領域。「購買起点」のデータや購買に直結する「売り場接点」を持っているため、これまでにないアプローチ方法で広告配信やマーケティング施策を実現できると思っています。
市川:さらに、私たちは食品卸として「売り場」を誰よりも知り、小売の売上に貢献してきました。さらに、全国ネットワークもあるので、特定の流通だけにとどまらない横断的な視野を持っています。その強みに加えて、デジタルやデータを掛け合わせることができる仕組みが整ったのが今の三菱食品。購買を起点に最適な広告施策を設計できる会社に進化しました。
小西:三菱食品では、年間12億件の出荷データをもとに市場を分析し、さらに3,600億件を超える生活者行動データ、そして全国の約1億のID-POSデータを掛け合わせた広告配信の仕組みを整備しました。この“流通+生活者”の両データをもとに広告を設計できるのが、私たちのマーケティングソリューションの特徴です。食品卸として売り場を熟知してきた三菱食品だからこそ、再現性高く購買に結びつきやすい広告配信を実現できるのだと思います。
商品流と情報流をつなぐ「DDマーケティング
─購買起点でマーケティング戦略を設計する仕組みとして、三菱食品では「DDマーケティング」という概念を提唱しています。
市川:「DDマーケティング」のDDとは、“Data × Digital”という意味です。当社が保有する購買や出荷などのデータと、デジタルメディアを組み合わせて、マーケティングの全体設計から実行、検証までを支援する仕組みを「DDマーケティング」と呼んでいます。具体的には、商品やブランドの購買実態の理解からターゲティング設計、位置情報を活用した広告配信・販促企画、そして購買データによる効果検証まで、いわばリアルとデジタルを横断しながら認知から購買までを一気通貫でつなぐ手法です。
草野:話してきたように、従来は広告で「認知を広げる」ことと、売り場で「購買を促す」ことは分断して捉えられることが多かったと思います。それゆえに担当部門も分かれているはずですし、追っているKPIも異なっているのではないでしょうか。この分断をつなぐのが「DDマーケティング」です。
「(広告を)見た「(店に)来た」「(商品を)買った」という成果が出た理由を、購買データや広告視聴データをもとに議論することを可能にします。メーカーの宣伝と販促といった部門間の連携だけではなく、広告会社とも“購買”という共通言語で成果を語り合えることがポイントです。
データとデジタルでつなぐ「コーバイコネクト」
─その「DDマーケティング」の思想を実装したサービスが「コーバイコネクト」ですね。
市川:「コーバイコネクト」は、全国のスーパーやドラッグストア、コンビニエンスストアなどが保有するID-POSデータを活用し、広告配信から販促・購買検証までを一貫してサポートするソリューションです。購買実績に基づいてターゲティングできるため、広告の無駄打ちを抑え、購入見込みの高い層へ効率的にアプローチすることが可能です。配信可能な媒体はSNSや動画、OTTなど、主要プラットフォームには出稿対応しています。広告を見た人が「実際に店頭で買ったかどうか」を検証できるのが大きな特長です。
小西:「コーバイコネクト」には大きく3つの強みがあります。1つ目は、業界最大級の購買データプラットフォームであることです。三菱食品の流通ネットワークを生かし、スーパーやドラッグストア、コンビニエンスストアなど複数チャネルのデータを横断的に保有しているので、購買データプラットフォームとしては最大級だと自負しています。
2つ目は、データ活用の自由度の高さ。購買データはローデータ形式で小売からお預かりしているため、広告配信だけでなく、事前分析や購買後の効果検証、併買・流出入分析など多面的な活用が可能です。3つ目は、配信設計の柔軟さです。全国横断型のキャンペーンにも、特定小売に絞った個別施策にも対応できます。さらに外部メディアのアフィニティデータや位置情報とも連携可能な体制になっているので、最適な顧客セグメントを構築できます。
─これまでのリテールメディアが1社特化型の広告配信メディアでしたが、「コーバイコネクト」は複数企業横断した配信が可能だと。
市川:たしかにリテールメディアは“小売単独”で運用されるケースが多いですよね。一方で当社の「コーバイコネクト」は小売横断で購買データを活用できる点が特徴です。1社単独だけでは見えない、カテゴリー全体の購買傾向やシェア構造まで広く可視化できるため、より精度の高いマーケティング施策を立案できます。
「コーバイコネクト」が可能になる広告配信のポイント
施策開始から効果検証までPDCAの中心は常に「購買」
─実際の活用プロセスはどのような流れですか。
小西:施策の前段階では、まず「0次分析」と呼んでいる事前分析を実施します。全国の小売を横断したID-POSデータと生活者のデモグラ情報や行動情報を掛け合わせて、既存購買層や離反層の分析、競合商品の流出入、併売傾向などを把握し、そこからターゲットセグメントを設計します。この分析結果に基づいて、最適な広告配信プランを提案します。施策実施後は購買リフトなどの効果を検証し、次の施策へとつなげていく流れです。
市川:言うなれば、「購買データ」を分析の起点にして広告配信を最適化し、施策実施後はまた「購買データ」を用いて検証するというサイクルですね。施策前・施策中・施策後のどのフェーズでも「購買データ」を中心にしてPDCAを回します。
小西:また、0次分析はメーカーの新しい課題発見につながる場合もあります。例えば、「認知は取れているが、売上につながっていない」という課題があったとしましょう。そこで全国の小売のID-POSをもとに0次分析してみると、ブランドが想定していた購買層と実際の購買層が異なっていたことが判明することもあります。つまり、従来の広告施策に課題があったということがわかる、ということですね。広告配信前の0次分析を通じて、本当に広告をあてるべき生活者を見極めたり、潜在顧客層を見つけられたりするケースも少なくありません。
草野:広告配信の最適化というメリットだけではなく、従来の営業部門が持っていた「どこで、どのように売れているのか」という知見やデータと、デジタル広告の配信結果を紐づけて検証できるようになったことで、宣伝・販促・営業が同じテーブルで戦略を議論できるようになります。このような「購買起点のマーケティング設計」を支えているのが「コーバイコネクト」です。
「コーバイコネクト」の活用例
─データ提供だけではなく読み取った示唆からどんな施策につなげるかもサポートしてくれるのでしょうか。
市川:当社マーケティング開発本部は、広告会社出身者と食品流通出身者の双方が在籍しています。私も以前メディア企業に出向した経験があり、デジタル広告運用の現場感覚や知見は持ち合わせていますね。一方で、草野のように流通・卸の現場を知りつくすメンバーも多く、「広告と売り場」という2つの視点を融合しながら施策を設計できるのも、当社ならではです。
草野:数字を読むだけではなく、その背景にある「なぜ売れたのか」「なぜ売れなかったのか」を現場目線で理解する。その“翻訳者”としてデータを読み解く人材がいることも三菱食品の特徴です。購買データを本当に意味あるものに変えられる理由のひとつですね。
広告と販促の“あいだ”をつなぐ三菱食品が目指すマーケの未来
─2025年度から広告会社との連携を本格的に進めているそうですね。
小西:2025年度から、広告会社をパートナーとした展開を本格化しています。広告会社の持つクリエイティブや広告設計力と、私たちが持つ購買・売り場データの知見を掛け合わせることで、より購買への再現性が高い施策ができるようになりました。メーカー、小売、生活者の三者にもっと大きい価値を提供できるようになるのではないかと実感しています。
市川:実際、広告会社の方々からは、「生活者の購買データを軸にした広告設計をしたい」というご相談も増えています。購買を起点にした広告・販促設計を推進する三菱食品としても、広告会社と連動できるのは非常に意義があると思っています。
─最後に、マーケティングパートナーとしての三菱食品は、クライアントのどのような課題解決を実現していきたいですか。
草野:生活者の行動データや購買データを活用し、広告宣伝から店頭販促までを一貫してサポートするマーケティングソリューションによって、「宣伝と販促の融合」を行っていきたいです。メーカーが持つブランドの課題を精緻に分析しながら、マーケティングプランの効率化、仕組み化のお手伝いをできればと考えています。生活者に欲しい情報を欲しいタイミングで届け、途切れなく接し続けることで、食の豊かさが人生の豊かさにつながる取り組みを実現していきたいです。

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