マーケターが集うライブで見えた新しいビジネスの形
―「J7K6」の成り立ちについて教えてください。
田中:もともと私たちは、私が演者、河野さんが観客という形で、ライブハウスで出会いました。でも年齢は15歳も離れていましたし、私はデジタルエージェンシーで、彼はクリエイティブエージェンシーの社長ということで、業界は近いものの、どこかコンペで競合するかもしれないという意識があり、少し距離がありました。その関係が変わったのが、2019年から一緒にやっている、マーケティング業界有志によるライブイベント「J LIVEDAY」です。特にコロナ禍では、河野さんの会社のスタジオからYouTubeで生配信をしたり、投げ銭システムを導入したり、色々なことを一緒に試行錯誤して、「熱量の高い活動」を共に行いました。その過程で、ヒエラルキーや年功序列のもとで凝り固まってしまった従来のビジネスを見直し、「ビジネスにエンタテインメントを取り入れたい」と強く思うようになったんです。
河野:正直言って最初は、田中さんは業界の重鎮というイメージがあって、権威的な人が苦手な私にとっては少し距離を置きたいタイプでした(笑)。しかし音楽というフィールドでは年齢や肩書は関係なく「高校の部活の先輩・後輩」のような関係性になるんです。演奏がうまいヤツがリスペクトされるけれど、うまいだけでもダメ。人間性や個性が求められます。
田中:普段、マーケティングやクリエイティブ、メディア界隈のプロフェッショナルとして活躍している人たちが、趣味のバンドでは「ワガママ」とも言えるくらい、ものすごいこだわりと熱量を発揮します。仕事では全体を見据えて「最適解」を見出しているのに、ステージ上ではリミッターを外して「最高」を求める。この熱量をビジネスに持ち込めないかと考えたのが、ユニットを発想した原点でした。年齢や肩書といった垣根を取り払って、気の合う仲間と価値を創造できたら、こんなに面白いことはないなと考えたのです。
―J7K6はどのような役割を担うのでしょうか。
田中:私たちはプロジェクトをひとつの「舞台(ステージ)」だと捉えています。そして、その舞台が成功するためのサクセスストーリー、つまりシナリオや演出、興行全体を考えた上で、ジャンルを超えた演者をキャスティングし、オーケストレーションするのが私たちの役割です。単に課題を聞いて解決策を提案するのではなく、プロジェクトを生み出す「問いを立てる」ところから一緒に伴走します。
河野:何度かやっていくうちに、スキルがある人を組み合わせただけでは、目的に合ったユニットはつくれないのだということが分かってきました。大切なのは、まさに舞台のように「このプロジェクトの成功には、このシナリオで、こういう個性を持った人が必要だ」という設計図を先に描くこと。そしていつもはデザインが本業の人にPMを依頼する、といった采配も含めて、その人のまだ見ぬ可能性を引き出すようなキャスティングを行うことが、成功の鍵だと実感しました。
田中:アソビシステムのアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」が良い例です。先日LIVEを観てきた「CUTIE STREET」などは、年齢も経歴も異なるメンバー8人が、「“KAWAII”を原宿から世界へ発信する」というコンセプトで、多くの人の心を動かしている。ビジネスも同じで、所属という枠を超えて共通の目的やビジョンがあれば、最高のチームはつくれるはずです。私たちは、そのためのハブになりたいと考えています。
河野:私たちはクライアントにとって「中の人」と「外の人」の中間的な立ち位置、いわば「半分社員」のような立場で深くプロジェクトに入り込みます。私たち自身が特定の商品やサービスを売ることが目的ではなく、あくまでプロジェクトの成功が最優先。だからこそ利害関係に縛られず、純粋にベストな選択ができると考えています。
田中:受発注の関係ではやりづらいことも、中間的な立場で「和やかに」進めていくのが、もうひとつの役割かもしれませんね。
AIが「マネージャー」となってメンバーをサポートする
―今回のユニットではAIの活用も掲げていらっしゃいます。
河野:AIをはじめとするテクノロジーが進化すれば、誰もが同じようなことができるようになります。そうなると、情報の価値は相対的に下がり、リアルな体験や感動、その人ならではの思いといった、代替不可能なものに価値が回帰していくと考えています。ライブの演奏がそうであるように、完璧さよりも、そこに込められた思いや熱量が人を動かすんです。
その上で、AIは活動をサポートする強力な「マネージャー」として活用したいと考えています。プロジェクトの情報をAIが常に把握し、各メンバーへのタスクの振り分けやスケジュール調整などを自動で行う。人間は、よりクリエイティブな思考や、人間同士のコミュニケーションに集中できる。この仕組みは現在、特許も申請中です。
田中:その人のオリジンは、過去の原体験や趣味からつくられているはずです。マーケティングやクリエイティブ、メディア界隈には、実はミュージシャンや漫画家になりたかったという人が驚くほど多い。その根底には、誰かを楽しませたいという「おもてなし」の心があるからだと思います。私たちは、そうした個人の価値観や原体験をビジネスの場で発揮できるような環境をつくりたいんです。
―今後の展望についてお聞かせください。
田中:壁打ちや戦略立案で終わるのではなく、実際にプロダクトやサービスを「つくる」、実行(エグゼキューション)の部分にこそ、私たちの価値があると思っています。例えば「行列のできる本屋さんをつくりたい」といった具体的なアウトプットが見えるお題の方が燃えますね。
河野:モノづくり、コトづくりこそが私たちの本質。デザインやAIの実装など、実際に手を動かして形にするところまでできる実行部隊です。ときには、こちらから企業や自治体に持ち込み企画を提案することもあるかもしれません。
田中:このユニットは、決して2人だけで閉じるつもりはありません。現在は周りの信頼できる仲間から始めていますが、今後、共感してくれる人が集まってくるような場所にしたい。大企業に勤める若手がアシスタントとして参加したり、持ち込み企画で新しいプロジェクトが生まれたり。「戦略」だけで終わらない、熱量を伴った「実行」が化学反応を起こす、ビジネスのハブを目指していきたいと考えています。

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