「Intangible」から生まれる体験デザイン 博展が考える、広告×エンタメの未来

体験価値が重視される現代のマーケティングにおいて、人の心を動かす「生」の感覚をいかにして生み出すか。この問いに、新たなアプローチで挑むクリエイティブコレクティブ「Intangible Studio」が博展に誕生した。中心となるのは若手プランナー・クリエイターの3名。「無形(intangible)」から生まれる体験デザインの思想と手法について、同社エクスペリエンスマーケテイングBtoC事業ユニット長の木島大介氏と、クリエイティブ局プランナー・Intangible Studio主宰の浅井玲央氏に話を聞いた。

「総合力」の先にある「尖り」を求めて

―「Intangible Studio」が発足した背景をお聞かせください。

木島:私たちが所属するエクスペリエンスマーケティング事業部は、主にBtoC領域のマーケティング支援を行っています。博展はもともと歌舞伎の舞台装飾をルーツに持ち、展示会・見本市の装飾施工などBtoB領域で成長してきましたが、約10年前からBtoCブランド企業のイベント・プロモーション支援に進出し、現在ではBtoBと並ぶ事業規模にまで拡大しています。

企画から実行まで一貫して対応できる「総合力」は当社の強みですが、近年はさらに事業を伸ばすために、それぞれの専門性や“尖り”が必要だと感じるようになりました。特に成長分野であるBtoC領域では、人の心を動かす「熱量」の源泉となる、クリエイター個人の強いアイデアと実行力が欠かせません。

現在、博展には約130名、私たちの部署だけでも約40名のクリエイターが在籍しています。そこで、個々の特技や個性をより伸ばしていくための戦略として、インハウスのクリエイティブコレクティブを立ち上げました。それが、2024年に誕生した「Intangible Studio」です。自分たちがコンテンツを生み出す発想を起点に、その“尖った熱量”をもって新しい価値を提供することを目指しています。

―「intangible(インタンジブル)=無形」という名前には、どのような意図が込められているのでしょうか。

浅井:博展の仕事は、これまで空間施工やデザインなど、フィジカルな体験づくりが中心でした。以前、海外のデザインウィークに出展した際「あなたたちの仕事はタンジブル(有形)だね」と言われたこともあります。しかし私たちは、「体験」はフィジカルなものに限らず、Webや映像なども含めて総合的につながっていくものだと考えています。博展には“有形”のものを形にする高い実行力があります。だからこそ私たちは、その真逆にある“インタンジブル(無形)”、つまりアイデアや概念の段階から発想し、それを実現まで落とし込む集団でありたいと思いました。

私たちが重視するのは、「体験」を一連の“連なり”として設計することです。人がその空間に存在したときにどう感じるか、そして世の中にアイデアが染み出したときにどんな影響を及ぼすか。そこまでを視野に入れてプロジェクトを考えています。

イメージ ロゴ

写真 人物 Intangible Studioのコアメンバー

Intangible Studioのコアメンバー(写真左からデザイナー 木下侑樹氏、プランナー 浅井玲央氏、プロデューサー 竹中真由子氏)がプランニングや造作・デザイン・コピーライティング・プロダクトマネジメントなど様々な役割を担いつつ、プロジェクトに応じて社内のメンバーをアサインして活動している。

―具体的なプロジェクトについてお聞かせください。

浅井:クライアントワークの例として、東京ドームとタッグを組み、11月6日にリニューアルした東京ドームシティ アトラクションズの新アトラクション『暗闇婚礼 蠢一族お化け屋敷』があります。お化け屋敷プロデューサーの五味弘文氏とともに、内部の企画・施工だけでなく、販促を含めた全体のコミュニケーション設計を担当しました。

今の若い世代はあらゆる広告表現を見慣れており、心が動きにくい。彼らの感情を揺さぶるのは、生々しい感情や“本能”に訴える体験です。そこで今回は、架空の結婚雑誌『繁栄』を制作するなど、内部の体験とプロモーションを接続し、来場前から一貫した世界観を提供することを意識しました。

アトラクション『暗闇婚礼 蠢一族お化け屋敷』は、昭和20年代後半、東北の山奥にある蠢(おごめ)一族の物語。コンペの段階で「プレゼン後に明転すると人形が急に現れる」などの体験を実物で演出したという。

アトラクション『暗闇婚礼 蠢一族お化け屋敷』は、昭和20年代後半、東北の山奥にある蠢(おごめ)一族の物語。コンペの段階で「プレゼン後に明転すると人形が急に現れる」などの体験を実物で演出したという。

また、イベント「Trash Party」は、「サステナビリティをどうエンタメに昇華させるか」という発想から生まれた、自社発の共同開発プロジェクトです。フェスやイベントを手がけているCHIMERA Unionと共に、「ゴミの音でパーティーをしたら面白いのでは」というアイデアを形にしました。「楽しい」「イケてる」という動機でイベントに参加するうちに、結果的にサステナブルな行動につながる。そんな体験をデザインしました。

2025年5月にお台場で開催された「CHIMERA GAMES Vol.10」にて初公開された「Trash Party(通称:ゴミパ)」。来場者がゴミを捨てる動作を通じて生まれる音をリアルタイムで音楽化し、DJがその場で“ゴミの音”によるライブパフォーマンスを実施。

2025年5月にお台場で開催された「CHIMERA GAMES Vol.10」にて初公開された「Trash Party(通称:ゴミパ)」。来場者がゴミを捨てる動作を通じて生まれる音をリアルタイムで音楽化し、DJがその場で“ゴミの音”によるライブパフォーマンスを実施。

最近は、クリエイター個人の熱や「こうしたい」という強い意志がにじみ出ている企画こそが、人の心を動かすと感じています。プロダクション機能を持つ当社だからこそ、それを“架空の企画”に終わらせず、スピーディに実現までやりきることができます。企画は「クライアントの課題解決」から出発するよりも、私たち自身の「やりたい」という「欲望」を、課題にかけ合わせていくイメージです。私たちの熱量を起点にすることで、クライアント担当者の心の奥にある熱量も引き出せるのではないか。これまでのクライアントとエージェンシーという一方向の関係を、より双方向なものに変えていきたいと思っているんです。

―最後に、今後の活動についてお聞かせください。

浅井:12月には博展の一年間の体験デザインの実績を展示する「Hakuten Open Studio 2025」を開催します。私たちが日々活動をしている制作スタジオ「T-BASE」を公開し、案件だけでなく社内の実験的な取り組みも紹介します。そこでビジネス関係者に限らない幅広い層との接点をつくっていきたいと考えています。

また今後は、クライアントワークだけでなく、自社発の体験型イベントやブランドを立ち上げ、発信していく構想もあります。

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2025年12月10日~13日の4日間にわたり、「Hakuten Open Studio 2025」を東京・辰巳にて開催する。4回目となる今年は初めて、一般の方も入場できるオープンなイベントに。

2025年12月10日~13日の4日間にわたり、「Hakuten Open Studio 2025」を東京・辰巳にて開催する。4回目となる今年は初めて、一般の方も入場できるオープンなイベントに。

お問い合わせ

株式会社博展

E-mail: marketing@hakuten.co.jp
URL: https://www.hakuten.co.jp/
採用:https://recruit.hakuten.co.jp/


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