カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が2025年9月、創立40周年を記念して公開した「AI増田宗昭」。創業者である増田宗昭会長の思考や人格を学習したこのAIは、事業や企画の相談に乗ってくれるという。デモンストレーションで「雨の日に書店に来てもらうためのユニークな施策は?」と問いかけると、増田氏本人の声色で「私なら、雨の日限定で傘のシェアリングサービスを店頭で展開するだろうね。来店へのハードルを下げつつ、自然な形で蔦屋書店の魅力を伝えられる。傘のグリップ部分にその日のおすすめ本のQRコードをつけて、雨の日だからこその読書の楽しみも提供できる」と示唆に富んだアイデアが返ってきた。まるで本人と対話しているかのような体験。この前例のないプロジェクトは、一体どのようにして生まれたのか。開発を主導した、CCCグループのCCCMKホールディングスのチーフAIエンジニアの三浦諒一氏に、開発の裏側、そして企業がAIと向き合うべき未来について聞いた。
「増田宗昭をAIにできないか」。すべてはその一言から始まった
━━「AI増田宗昭」の開発の経緯を教えてください。
CCC創立40周年を記念した企画の一環として始まったプロジェクトです。しかし、その裏側には、技術の進化と向き合い続けてきた私たちの研究開発の歴史と、前例のない挑戦を成功させるための数々の試行錯誤がありました。
すべての始まりは、今から約1年前に遡ります。CCCが翌年に創立40周年を迎えるにあたり、経営メンバーが集まって「何をしようか」とブレインストーミングをしていたそうです。その中で、とある役員から「増田さんは若手経営者から会いたいとよく言われるが、時間がない。それなら、増田さんをAIにしたら面白いんじゃないか」というアイデアが生まれました。
その話が、40周年企画を担当していた広報部のもとに下りてきました。そして「AIをつくれないか」と、私のところに相談が来たのです。
━━三浦さんはもともとどういう業務をされていたのでしょうか?
それまでVポイントのデータを使った機械学習による購買予測や、画像などの非構造化データの解析をする研究をしてきました。そして、2022年末にChatGPTが登場したのを機に、「これは乗り遅れてはいけない」と、LLM(大規模言語モデル)の研究開発に軸足を移したばかりだったのです。
それまでは社内に閉じた独自のデータを使って回答を生成するAIを研究テーマとしていましたが、そこに「増田宗昭の知識」という具体的なデータを与えれば、彼らしい対話ができるAIがつくれるのではないか。これは、私たちが試したかった技術を実践する絶好の機会。まさに「渡りに船」で、早速プロトタイプの開発に着手しました。

