2030年の開業を目標としている川崎市の新アリーナをめぐり、スポーツ、音楽、カルチャーが交差する新しい都市戦略が本格的に動き始めている。プロバスケットボールクラブ・川崎ブレイブサンダースを擁するDeNAは、このアリーナを「街全体を活性化させるハブ」と位置づけ、スポーツと音楽を核にした“カルチャーシティ”の実現を描いている。その助走期間として開催されたイベント「LIVE STOCK – KAWASAKI MUSIC JOURNEY -」は、スチャダラパー、STUTSといったカルチャーの担い手を巻き込み、川崎の街が持つ潜在力を鮮明に示すものとなった。
この取り組みは、単なるイベント事業にとどまらない。川崎という都市の歴史、そこに根付いてきた音楽文化、そして未来の街づくりをどうデザインするかという問いと向き合うプロジェクトである。本稿では、ディー・エヌ・エーのスポーツ・スマートシティ事業本部 川崎拠点開発室 室長 兼 DeNA川崎ブレイブサンダース 取締役会長 元沢伸夫氏、ヒップホップアーティストのスチャダラパーBose氏・ANI氏・SHINCO氏、そしてライブ終演後にコメントを寄せたトラックメーカーSTUTS氏の言葉をもとに、川崎で進む新しい都市モデルの現在地を描いていく。
スチャダラパーとの協働から始まった“観戦体験づくり”
東芝からDeNAにクラブ運営が承継された2018年、川崎ブレイブサンダースは競技成績こそ高水準だったものの、事業面では課題を抱えていた。DeNA元沢氏は「動員5000人のアリーナにもかかわらず、招待チケットで座席を埋めるような状況でした。強いチームなのに売れない。そこを変える必要があった」と当時を振り返った。
バスケットボールは音楽との親和性が高く、アリーナ演出におけるBGMは興行の質を左右する。そこでDeNAが選んだのがスチャダラパーだった。「NBAでは、曲と会場の熱気が完全にシンクロしている。日本でも“体験そのもの”を変えなければ意味がない」と語るのはNBAファンのBose氏(スチャダラパー)だ。
初年度、スチャダラパーは選手入場曲や応援コールの制作から着手する。ホームゲームの最後に毎回流れるエンディングソングも。Bose氏はNBAの演出を参考にしつつ“日本のバスケ体験”に翻訳することを目指した。
「NBAみたいにシーンごとに音が切り替わる文化は日本にはない。だからスチャダラパー流に再解釈してつくる必要があった。『帰り道に歌いながら帰れる曲』をイメージしてエンディング曲も作りました」(Bose氏)
