電子契約の先へ。クラウドサインが仕掛ける「プロセス変革」

コロナ禍を経て急速に普及した電子契約サービス「クラウドサイン」。現在でも成長し続けているが、運営する弁護士ドットコムの根垣昂平・クラウドサイン事業本部長は当時、単なる「ハンコの代替」という“点”のソリューションではサービスの価値は上がらないという危機感を持っていたという。

顧客の真の課題である「取引プロセス全体の効率化」にどう向き合うか。戦略の転換を実現するためのクラウドサイン流BPM(ビジネスプロセスマネジメント)論を語る。

急成長の裏にあった事業への危機感

コロナ禍のリモートワーク需要を背景に「紙とハンコ」に代わる手段として、電子契約は社会的な必須ソリューションへと一気に駆け上がった。現在では、国内No.1シェア、四半期で280万件の締結実績、自治体導入率約70%という成果を出しているという。

しかし、根垣氏は事業責任者としてこの状況を見た時、率直に「サービスの価値をさらに上げなければならない」という危機感を抱いた。印鑑の代替にしかならないものは、いくらでも置き換えが可能だからだ。急成長の裏で、顧客が本当に解決したい課題とサービスの価値とがずれてしまうリスクを感じていたという。この危機感が、クラウドサインの事業全体を再定義する起点となった。

弁護士ドットコム 執行役員 クラウドサイン事業本部長 根垣昂平氏

要望の向こうにある本質的課題を探り当てる

顧客が本当に解決したい課題は何か。根垣氏が見出したのは、「電子契約を導入したい」という要望の奥にある「営業活動の生産性を上げたい」「取引プロセス全体をデジタル化したい」といった、業務プロセスにおける本質的な課題だった。

契約書の作成、決済情報のやり取り、社内承認、関連資料の共有など、企業内には契約締結の前後に多数のプロセスが存在する。電子契約だけがデジタル化されても、その前後がアナログのままであれば、全体の業務スピードはさほど変わらないのだ。顧客にとって電子契約は「目的」ではなく、生産性を向上させるための「手段」の一つにすぎない。

このインサイトに基づき、同社は事業のミッションを大きく変更した。「電子契約」という“点”の提供から、「取引プロセス全体を支援する」という“線”、さらには “面”へと発想を広げ、顧客のBPM支援に注力する戦略へと転換したのだ。これは、単なる電子契約ベンダーから、顧客の業務プロセス全体を支援するパートナーへの「再定義」とも言える。根垣氏は、その最終形として「契約書におけるスマートコントラクトの社会実装(契約業務の自動化)」を見据えている。

戦略の軸にある「バックキャスト」思考

クラウドサインが「契約の前後」まで視野を広げられた背景には、バックキャスト思考がある。根垣氏が見据えるゴールを「スマートコントラクトが一般化し、人の手を介さずに取引が自動で実行される世界」だとすると、契約の前後にあるプロセスまでを一体で整備する必要がある。

こうした未来像から逆算する形で、同社はまず顧客企業の業務プロセスを丁寧に分解し、どこに時間や手戻りが発生しているのかを把握していった。さらに、海外の先進事例や商談の録画を分析し、顧客の実態や本音を読み解く作業を何度も繰り返した。

こうした複数の視点を重ね合わせ、将来必要となる基盤と現在解決すべき課題を結びつけることで、「契約」という点ではなく「取引プロセス」という面を対象にした戦略が形づくられていったのである。

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