再生数26億回超え。日テレが縦型動画に挑む理由
スマートフォンの縦画面で楽しむ、1話数分程度の「ショートドラマ」。通学や休憩といったすき間時間で視聴できる気軽さがZ世代の心を掴み、新しいエンタメの主流となりつつある。この潮流に、テレビ局としていち早く参入したのが日本テレビだ。
2023年3月、「はにかんでしまうような一瞬」をコンセプトに、縦型ショートドラマ『毎日はにかむ僕たちは。(通称:まいはに)』の配信をスタート。広告費を使わないオーガニック投稿のみで累計26億回再生を突破し、Z世代の3人に1人が認知する国内有数のアカウントへと成長した。
その影響力は、企業とのタイアップでも発揮されている。ニッスイとの事例では、卵アレルギーの子どもを持つ母親を主人公にしたドラマを制作。その中で、ニッスイの「たまごフリー」のねり製品が、家族の思いやりをつなぐキーアイテムとしてドラマ内に自然に登場。広告案件にもかかわらず、公開2週間でオーガニック再生1000万回を突破した。
@maihani.4 #PR 家族に嫉妬したことありますか?もちろん、私にはあります。妹が褒められているのを見て、「よかったね」と言いながら、心の奥が少しだけしょっぱくなる。家族って、近いぶん温度差に敏感で、優しさの中にも“比べられる痛み”が潜んでいます。でも、大人になると、世界って思ったより“やさしい配慮”でできているって気づきます。小麦を抜いたパンとか、乳製品を使わないアイス、卵を使わずにつくられたちくわとか。「これなら食べられるかも」と誰かが考えた、小さな思いやりがちゃんと残っている。そういう優しさを知ると、“私も大切にされていいんだ”って少し思える。そして、あの頃の嫉妬も、やわらかく溶けていく。家族の中でも、食卓の上でも、「気づいてるよ」が形になるだけで、人は救われる。だから今日も、そんなやさしさをそっと手に取りたいな。 #ニッスイ #手のかからない子 #マイナビショードラアワード2026 #まいはに ♬ 紡ぐ – Full Ver. – とた
@maihani.4 #PR 自分の「好き」を諦めたことありますか?子どもの頃は“好き”だけで世界が回ってたのに、大人になると、“現実”とか“効率”とかが邪魔をしてくる。気づけば、誰かの正解に合わせて生きるのが上手くなっていく。でも最近、「好き」をちゃんと守るって、案外やさしいことかもしれないと思う。グルテンフリーのパスタとか、牛乳が苦手な人のためのオーツラテとか、卵を使わずに作られたちくわとか。誰かの“好き”を奪わないために、工夫している人がいる。それって、ちょっとだけ世界をあたためるやさしさです。“好き”って、わがままじゃなくて、その人らしさの証拠。食卓の上でも、人生のどこかでも、「これが好き」と言える余白があるだけで、人はちゃんと笑える。そんな話を聞いてから「いただきます」をしっかり言おうと思った。 #ニッスイ #手のかからない子 #マイナビショードラアワード2026 #まいはに ♬ 雨 – 神が残した夢を喰う。
ブランドメッセージの訴求とユーザーの共感を両立させたニッスイの事例
『まいはに』プロデューサーの井上氏は「制作にあたり、実際に卵アレルギーのお子さんを持つ当事者の方にリサーチを行い、“共感”を極限まで言語化。何よりうれしかったのは、『ショートドラマで初めて感動して泣きました』『2人目が産まれたばかりの自分には刺さりすぎて』といった類のコメントが何件も寄せられたことです。コンテンツとして共感できるものをつくりながら、ブランドメッセージを伝えることができた好例だと思います」と振り返る。
日本テレビ放送網 コンテンツ戦略本部 コンテンツ戦略局総合編成センター プロデューサー 井上直也 氏
2025年4月にはテレビ局初の縦型ショートバラエティ『ちょこっとぱーちー』を立ち上げるなど、ジャンルを横断して着実に実績を積み重ねてきた。このノウハウを武器に、2025年12月、縦型動画の専門組織「VIRAL POCKET」を始動させた。
井上氏は「『まいはに』のヒットをきっかけにタイアップも成功し、縦型動画市場の大きなポテンシャルを確信しています。日本テレビとして、この領域で本気で新しいエンタメをつくっていくんだという意思表示として、組織化に踏み切った形です。今後は企業や制作会社とIPを共創するなど、より多様なパートナーシップを加速させていきたいと考えています」と語る。
ヒットの鍵「圧倒的共感」をつくるメソッド
「広告なのに見たい」と思わせるコンテンツを、このチームはなぜ生み出し続けられるのか。その源泉は、クリエイティブ(右脳)とデータ分析(左脳)を両輪で回す、独自のメソッドがある。
「数年前の縦型動画は、アルゴリズムによって“見させられる”受動的な視聴が主でした。しかし今は“プロ”がつくるコンテンツ(PGC)が増え、アカウント自体が“番組化”。ユーザーも『このアカウントが好きだから見たい』と能動的にコンテンツを選ぶようになってきています」(平岡氏)
日本テレビ放送網 コンテンツ戦略本部 コンテンツ戦略局総合編成センター メディア開発Div. プロデューサー 平岡辰太朗 氏
この“見たい”という欲求に応えるのが、まず「右脳」的なアプローチだ。その土台は、井上氏の圧倒的なインプット量にあるという。
「『アルゴリズムをハックすればバズる』というのは大きな誤解です。単に流行りのフォーマット、例えば『ドアを開ける演出』や『続きがあるように見せる』といった小手先のテクニックだけでは、目が肥えた今の視聴者には通用しません。そのため、私は毎日平均8時間、性別や年齢を変えた複数のペルソナのアカウントでSNSを視聴し続けています。なぜこれは再生されるのか、なぜこれはスルーされるのかを常に考え、視聴者の心を動かす“種”を集めています」(井上氏)
動画とセットで視聴されることが多い、コメント欄の分析も欠かさないという井上氏。バラエティアカウントでは、コメント返信も1件ずつ自らが行い、視聴者の“親しみやすさの言語化”を行っているという。
「コメント欄は視聴者のリアルな感情が最も表れる場所。そこを深く読み解くことで、バズるコンテンツの共通項である『圧倒的共感』のツボを肌感覚でつかんでいく。コメントされやすい“共感”の解像度を上げることで、実際に動画で使用する小道具やメッセージ画面の一つまで描写を突き詰めています。
このプロセスがあるからこそ、『今日流行っていることを来週のコンテンツに反映させる』といったスピード感が生まれる。ただ、単に流行を模倣するのではなく、同じようなショートドラマに見えても、実は毎回新しい“つかみ”や“展開”に挑戦し続けるためのサイクルでもあるのです」(井上氏)
一方で、この右脳的なクリエイティブを支えるのが、「左脳」的なデータ分析だ。年間100本以上制作する全コンテンツで、配信後に必ず「何が良くて何が改善点なのか」を言語化し、チームで共有。再生数や視聴維持率といった定量データをただ見るだけでなく、「なぜこのシーンで離脱が起きたのか」などを考察し、次の企画に活かしていくという。
「面白いものをつくるクリエイティブの本質(右脳)と、それを裏付けるデータ(左脳)、この両輪を回し続ける地道な“筋トレ”が重要なポイントです」(平岡氏)
テレビ局だからこそ提供できる価値
この独自のメソッドを武器に、VIRAL POCKETは3つの事業を展開する。ヒットコンテンツを開発し、新しいキャッシュポイントを生み出していく「コンテンツIP事業」、縦型動画の制作受託やイベントやECといった多角的な出口戦略までを一貫して設計・実行する「プロデュース事業」、そして企業のSNS戦略やコンテンツ活用を支援する「マーケティング支援事業」だ。通常の制作会社と一線を画すのは、テレビ局ならではのアセットを掛け合わせられる点にある。
「テレビ番組制作で培ってきたクリエイティブ力と、デジタルのヒット法則を掛け合わせられること。さらに、縦型動画を起点に、地上波番組との連動やイベントの設計など、メディアミックスを仕掛けられるのは大きな強みです」(平岡氏)
この“テレビ局”としての強みに、両氏が持つ大手広告会社での経験が掛け合わされる。
「私と平岡は、ともに総合広告代理店の出身です。だからこそ、単に『面白いものをつくる』だけでなく、『企業のマーケティング課題をどう解決するか』という視点が常にあります。クライアントのKPIを理解し、ブランドメッセージを共感ストーリーへと翻訳する。この“広告とコンテンツの両方を理解している”ことが、私たちの本質的な強みです」(井上氏)
「これまで、デジタル広告戦略を考える際に『テレビ局に声を掛けよう』という発想はなかったと思います。私たちは、企業の“広告領域における戦略パートナー”という、テレビ局の新しい役割をつくっていきたいと考えています。コンテンツ文脈とマーケティング文脈両方を理解しているからこそ、従来の広告が効きづらい若年層に対して企業と共に効果的なコミュニケーションのあり方を模索していきたいです」(平岡氏)
VIRAL POCKETではすでに、アイドルや音楽、美容、EC、イベント連動などの新ジャンルでのIP開発にも着手し始めているという。
「デジタル領域は、もはや総合格闘技。TikTokだけ、YouTubeだけではなく、いかに多様なものを組み合わせて新しいエンタメをつくっていくか。様々な領域のクリエイターや企業とパートナーシップを組みながら、挑戦を続けていきたいと考えています」(平岡氏)
「マスとデジタル、そしてオフラインまで溶け込んだ統一性のある施策をどんどん仕掛けていきたいです。視聴者の目が肥え、安易なフォーマットの模倣が通用しなくなった今だからこそ、テレビ局として培ってきた『面白いものをつくる』という本質的なクリエイティブ力が活きてくると信じています」(井上氏)

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日本テレビが立ち上げた、縦型動画を中心としたスマホ時代のコンテンツに特化した新組織です。SNS総再生26億回超えのショートドラマ「毎日はにかむ僕たちは。」や、Z世代に人気のショートバラエティ「ちょこっとぱーちー」など、ヒットコンテンツを多数展開。自社コンテンツ開発から、企業との共創によるコンテンツプロデュース、SNSマーケティング支援までを一貫して手がけます。テレビ局の企画・制作力に、Z世代への感度をかけ合わせ、カルチャーとビジネスの両面から“次のエンタメ”を共創していきます。
Webサイト:https://viralpocket.jp
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