クリエイティブスタジオ・Whateverは、なぜ自社プロジェクトに力を注ぐのか?

3. 新しい知見を獲得できる「実験」と「実践」の場
「なんでもつくる」を標榜しているWhateverですが、取り組んだことのない領域に、クライアントの予算でいきなり挑戦するのは無責任だとも自覚しています。でも、自社プロジェクトであれば、失敗を恐れずチャレンジできる。

音楽と同期して歌詞が浮かび上がる「Lyric Speaker」は、当時の僕たちにとって完全に未知の領域だったハードウェア開発への挑戦でした。トライアンドエラーを繰り返しながら得た製造プロセスやサプライチェーンなどの知見は、かけがえのない資産となり、他のプロダクト開発系のプロジェクトに活かされています。

このように、自社プロジェクトは、まだ見ぬ領域に足を踏み入れるための「実験」と「実践」の場です。そこで得た知識や経験は、クライアントワークにも確実に還元されます。自社プロジェクトでの挑戦はクライアントワークにおける提案の解像度を上げ、逆に受託制作で得た知見が自社コンテンツ開発を加速させることもあります。

両者の行き来によって生まれる循環が、Whateverのクリエイティブを進化させ続ける原動力になっています。

4. 課題を「自ら発見する力」が養われる
受託制作では、課題はクライアントから「与えられる」ものですが、自社プロジェクトは課題を自ら「発見する」ことから始まります。

近年、クライアントや社会全体の課題そのものが複雑化し、「問題があることは実感しているが、そもそも何を解決していいのかが分からないから一緒に考えてほしい」という相談も増えています。この問いに応えるには、普段から自ら課題を発見・定義する訓練を積んでおく必要があります。

先端医学の研究者たちと立ち上げた「Open Medical Lab」は、僕たちが「ウェルビーイング」という巨大かつ抽象度の高い社会課題に向き合ったプロジェクトです。医療の専門家と組むことで、確かな効果が見える形でクリエイティブがどのように社会貢献できるのかを問い続ける。こうしたプロセスの積み重ねは、プロジェクト単位の成果だけでなく、僕たち自身の課題発見力そのものを鍛える土壌になっています。

アイデアが生まれ続ける「土壌」をつくる

では、どうすれば継続的に自社プロジェクトを生み出せるのでしょうか。
自社プロジェクトはやりたいけれど、忙しすぎてできない──。これはWhateverでも何度も直面してきた壁です。「自社プロジェクトに取り組むこと自体が最大の課題」といえるかもしれません。

だからこそ僕たちは、アイデアを枯渇させないための「土壌」、つまり文化と仕組みを育てることを大切にしてきました。職種を問わず、良いアイデアさえあれば誰でも手を挙げることができ、時間と興味さえあれば社内の誰でも巻き込んでOKというオープンな体制をつくり、すぐに小さくプロトタイプをつくってみることを奨励しています。

そして資金が足りなければ、クラウドファンディングなどで支援者を募る。僕個人のプロジェクトも含めて、過去に10件以上のクラウドファンディングを成功させてきており、多くの人々の支援のおかげでこうした自社プロジェクトを実現できています。資金だけでなく、「実現するためのモチベーション」をもらっていることが、プロジェクトの実現にとって非常に重要なのではないかと感じることが多いです。

「面白いものをつくり続けたい」人たちへ

Whateverには、面白いものをつくっていないと死んでしまいそうになるような、不器用だけど才能とパッションにあふれた人たちが集まっています。だから、自社プロジェクトは僕たちにとって“やらなければいけない努力”ではなく、“やらずにはいられない衝動”に近い側面があるかもしれません。

ただ、クライアントワークに頼り切るだけでは、ファイナンス的にもクリエイティブ的にも成り立ちにくい時代になりつつあるいま、クリエイティブスタジオに変化が迫られていることも事実です。自社プロジェクトは単なる趣味の延長でも、余力がある時に取り組む副業的なものでもなく、クリエイティブスタジオが選択できる、もうひとつの未来でもあると思っています。

受託制作で培った技術や知識と、自社プロジェクトで育まれる探究心や課題発見能力。これらが交差する場所にこそ、これからのクリエイターの価値が生まれるし、両者の境界を越えて往復することが、クリエイティブチームの健やかな生態系を育むと信じています。

How to make Whatever」では、自社プロジェクトの裏側や蓄積してきたノウハウもできる限り公開していきたいと考えています。 面白いものをつくり続ける仕組みをどう育てていけるのか。そのヒントにしていただけるとうれしいです。

How to make Whatever 講座概要

開講日: 2026年1月15日(木) 19:00~21:00
講義回数: 10回
開催形式: 教室開催(宣伝会議表参道セミナールーム)
定員: 20名
詳細・お申込: こちらから

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川村真司

Whatever
CCO / Creative Director

Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。180 Amsterdam、BBH New York、Wieden & Kennedy New Yorkといった世界各国のクリエイティブエージェンシーでクリエイティブディレクターを歴任。2011年PARTYを設立し、PARTY New York及びPARTY Taipeiの代表を務めた後、2018年新たなクリエイティブスタジオWhateverをスタート。数々のグローバルブランドのキャンペーン企画を始め、プロダクトデザイン、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など、その活動は多岐に渡る。カンヌ・ライオンズをはじめとした国際賞を100以上受賞し、Creativity「世界のクリエイター50人」、Fast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」などに選出されている。

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