生成AIの活用は多くの企業で実用フェーズへと移行し、経営層から現場まで、その活用に向けた具体的な取り組みが加速している。単純な業務代替にとどまらず、個人の能力を拡張し、より付加価値の高い仕事を生み出すためのエンジンとして、ビジネスのあり方を根底から変えようとしている。
ADKマーケティング・ソリューションズ(ADK MS)は、日本IBMが提供する生成AIアセットを国内で最初に導入する“ファーストクライアント”として、新領域への挑戦を始めた。 彼らが語るマーケティング現場の変革、そのリアルな姿とはどのようなものか。11月26日に開催された「宣伝会議サミット」で両社がその取り組みの一部を紹介した。
(左から)モデレーターのADK MS 千野崇 氏、ADK MS三橋良平氏、日本IBM若松幸太郎氏、ADK MS鬼丸翔平氏
生成AI活用で、高付加価値な仕事へのシフトに期待
IBMが世界および日本の企業経営者に対して毎年実施している調査によれば、生成AIに対する期待値は極めて高い。若松氏は、「ルールベース型AIの時代から期待は高かったが、生成AI(機械学習型AI)の登場でより具体的になっている。すでにビジネスに投入し、一定の成果を上げている企業も出ている」と、その現状を語る。経営層の視線は、もはや導入の是非ではなく、いかにして具体的な成果に結びつけるかという実用フェーズへと完全にシフトしているのだ。
日本IBM コンサルティング事業本部 成長戦略統括事業部 ビジネス・アプリケーションズ パートナー/理事 若松幸太郎 氏
この経営層の期待に対し、現場の社員はどのように応えようとしているのか。三橋氏は、「単純作業の代替は当然のこととして、AIを使い、いかに価値の高い仕事を生み出していくかに期待が集まっている」と指摘する。定型業務をAIに任せることで、人間はより専門性を深掘りし、人材の成長を加速させることができる。現場の意識もまた、単なる効率化の先にある「価値創造」へと向かっている。
マーケティング現場に最適化されたAIアセット
ADK MSと日本IBMは2024年、ADK MSのマーケティング業務に生成AIをどう適用するかを具体化するため、数日間にわたるワークショップを実施。ADK MSの鬼丸氏は、「当社のベテランマーケターやクリエイティブメンバーと、日本IBMの技術スペシャリストが集結し、マーケティングフローにおけるAs-Is(現状)とTo-Be(あるべき姿)を定義し、そこにどのような技術が当てはまるかを特定する営みを進めた」と振り返る。
このワークショップで得られた「マーケター事情にフィットした手触り感のある課題と解決策」は、IBMがグローバルで先行提供していたアセットを日本市場に導入するにあたり、重要なインプットとなった。それが日本版「IBM Consulting Marketing Workbench」である。
20以上のAIエージェントが協働する
「IBM Consulting Marketing Workbench」は、単なるツールではない。戦略立案からクリエイティブ生成、そして施策実行までをシームレスにつなぐ統合アセットである。その構成は、戦略に資する情報を的確に分析する「ハイパー・パーソナライゼーション」、戦略やインサイトに基づき個別のクリエイティブを生成する「ハイパー・クリエーション」、そしてコンテンツ配信やCRM・MA連携を自動化する「ハイパー・オートメーション」という3つのエリアからなる。
このアセットの裏側では、20種類を超えるAIエージェントが協働している。ユーザーがマーケティング課題やコンテキストを入力すると、これらのエージェントが一斉に動き出し、統合的なプランニングを実行する。
「IBM Consulting Marketing Workbench」の機能例
ADK MSは、このアセットをファーストクライアントとして導入するにあたり、自社のマーケティング知見を組み込むカスタマイズを施した。PEST分析や3C分析といったマーケティングフレームワーク、ファネル別のターゲット分析など、熟練のマーケターが頭の中で行う思考プロセスがAIエージェントに実装されている。
先行ユーザーとしてこのアセットを使い倒している鬼丸氏は、「たくさんのマーケターと一緒に働いている、個人がさまざまなスキルセットを持ったマーケター組織を所有しているような感覚で仕事ができる」とそのユニークな使用感を語った。
ADKマーケティング・ソリューションズ DX推進局 R&D推進グループ グループ長 リサーチディレクター 鬼丸翔平 氏
AIがもたらす「余白」から、付加価値の高い仕事へ
このアセットは、働き方そのものを変革するポテンシャルを秘めている。三橋氏は、「広告会社の人間は仮説ドリブンで物事を考えることが多いが、その仮説の裏付けを一足飛びに固めにいける。今までストーリーで乗り切っていた部分を、データで補強できるようになった」と、その効果を語る。
ADKマーケティング・ソリューションズ 執行役員 エクスペリエンス・デザイン本部長 三橋良平 氏
実際にADK MSが社内でアンケートを取ったところ、同アセットの活用により「同じ業務の1件あたりの所要時間が90%以上減った」という回答が22%、「50%〜90%減った」が49%にも上った。この圧倒的な生産性向上は、マーケターに大きな「時間」という資源をもたらす。
問題は、その創出された時間を何に使うか、である。三橋氏は「いまエージェンシーに求められているのは0から1を生み出す創造性。顧客や生活者に驚き・喜びを与える仕事にシフトしていくべきだ」と強調する。鬼丸氏もまた、「マーケティングが複雑化し、1案件あたりの時間が短くなる中で、AIエージェントは本質的なことを考えるための『余白』を作ってくれる」と、ポジティブな未来像を描く。
目指すはAIとの共存、「AI+」が拓く未来
若松氏は、今後のAIと人間の関係性を「AI+(AIプラス)」という言葉で表現する。これは、人間がAIに業務を代行させる「プラスAI」の発想から一歩進み、AIがメインの業務を担い、人間はAIが出した結果に対して判断や指示を下したり、0から1を生み出す創造的な領域に特化したりするという役割分担の考え方だ。
そして、その実現のためには、単一のLLMに依存するのではなく、「業種や役割に特化した複数のAIエージェントを組み合わせることがベスト」だと若松氏は考えている。専門家のクオリティに耐えうるアウトプットを担保するには、それぞれの業務に最適化されたエージェントを適材適所で活用するアーキテクチャが不可欠となるだろう。
生成AIは、マーケティングの現場から単純作業を奪うのではなく、人間がより人間らしい、創造的で付加価値の高い仕事に集中するための強力なパートナーとなりつつある。ADK MSとIBMの協業は、その未来に向けた具体的な一歩を示している。
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