米Kenvue(ケンビュー)の日本法人は、ボディケアブランド「ジョンソン ボディケア」の新商品「ジョンソン ボディケア VCアロマミルク」の発売を機に、ブランド主導の発信からUGC(ユーザー生成コンテンツ)を起点にしたコミュニケーション設計へと大胆に舵を切った。アイドルグループ「超ときめき♡宣伝部」(超とき宣)を起用した施策で、「安いからなんとなく買う」存在から、「ジョンソンボディケアを買いたい」と指名されるブランドを目指す。
ファンの心をつかむコミュニケーションへの反響は想定を大きく上回るという。新商品発売から2カ月で、ブランド伸長率No.1(*1)、ブランド全体の売上前年比15%増(*2)など、ビジネスインパクトも大きく伸長した。その裏側にある、ファンダムを軸にしたコミュニケーション設計について、Kenvueのジョンソン ボディケアブランドチームと、パートナーとして伴走したNatee(ナティー)に、戦略転換の背景と具体的な取り組みについて聞いた。
*1:インテージ調べ(2025/9/8-10/27週データ ミルクカテゴリー内のメイン競合ブランドシェア昨対伸長率)
*2:2024年12月~2025年11月と前年同期(2023年12月~2024年11月)の比較
インフルエンサー起用から「発話」につなげる設計
Kenvue(ケンビュー)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンから2023年に分社化した世界最大の売上高を有するコンシューマービジネス専業カンパニー。世界165カ国で事業を展開し、日本では「リステリン」「バンドエイド」「ニュートロジーナ」「ドクターシーラボ」のほか、OTC領域の「ニコレット」など、9つの主力ブランドを持つ。
「ジョンソン ボディケア」は香りの良さが好評を得ている。近年、市場では「ボディケアにフェイスケア級の効果を求める」傾向が強まっており、同ブランドでは従来の香りと保湿に加え、美容効果の領域に拡大しつつある。
ブランドミッションは「自信を与えるボディケア」の実現であり、香りへのこだわりもその一環としている。保湿機能に加えて美容領域まで踏み込んだ処方は他社製品との差別化にもつながっている。
2025年9月に発売した新商品「ジョンソン ボディケア VCアロマミルク」は、高濃度(*3)で持続性のあるビタミンCを配合(*4)し、肌の奥まで浸透(*5)する処方を採用。保湿効果に加え、穏やかな角質ケアも可能にする。Kenvue広報の大山幸恵氏によると「ビタミンCを用いたスキンケアは顔用としては一般的だが、ボディケア商品への配合は珍しい」としており、大きな差別化ポイントだという。
*3:「エクストラケア アロマ ローション」比
*4:アスコルビルグルコシド(整肌成分)
*5:角層まで
Kenvue/JNTLコンシューマーヘルス コーポレートアフェアーズ コミュニケーション マネージャー 大山幸恵 氏
「なんとなく買う」から、自己肯定感を高めるブランドへ
発売を機に、ジョンソン ボディケアはマーケティング戦略の重心を、従来の「企業主体のブランド発信」から「UGC・生活者起点」へと移した。
ジョンソン ボディケア ブランドマネージャーの松尾莉奈氏は「メインターゲットを20代女性に設定し、この層での話題化を戦略の出発点としました」と語る。その背景には、店頭で「安いからなんとなく買う」という生活者が多く、ブランドの指名買いにつながっていないという課題があった。
「20代女性はSNSを通じたクチコミやデジタルPRに敏感な世代。ブランドからの一方的な発信ではなく、生活者自身が商品の魅力について語り合う状態をどうつくるかを考え、UGCを重視する戦略へ移行しました」と松尾氏は説明する。
Kenvue/JNTLコンシューマーヘルス ブランドマネジメント部 ジョンソン ボディケア ブランドマネージャー 松尾莉奈 氏
戦略パートナーとして協業したのは、クリエイター共創型マーケティングを主軸事業とするNatee(ナティー)。SNSクリエイターやZ世代に強いタレントネットワークを持ち、ブランドの事業成長につながるマーケティング支援を行っている。
施策の軸となったのが、アイドルグループ「超ときめき♡宣伝部」の起用。タレント起用に関しては、多くの候補を検討したが、松尾氏は、超とき宣を起用した理由を2点挙げた。
1点目は、ブランドとグループの長年の歩みのシンクロだ。超とき宣がデビュー10周年、そしてジョンソン ボディケアは20周年だが、「ただ周年の時期が同じということではなく、実は10年もの地道な努力を積み重ねて今があるという彼女たちの姿と、ブランドのこれまでの歩みとが重なった」のだという。
2点目は、彼女たちが発信してきたメッセージとブランドの価値観の一致。「『誰かのために』ではなく『自分のために可愛くなりたい』と歌い、体現してきた姿勢が、ブランドが掲げる“自己肯定感の向上”という価値と強く合致したことが大きい」としている。
Nateeの田中真愛氏も「超とき宣は『自分のための可愛さ』を強く肯定してくれる存在です」と話す。「ジョンソン ボディケアも“日々のボディケアを通じて自己肯定感を高めるブランド”であり、両者の世界観が非常に一致していました」と、起用の狙いを語った。
Natee Brand Partner Division アカウントエグゼクティブ 田中真愛 氏
加えて、超とき宣のファンはSNSでの発話が非常に活発で、ファン同士が自然に盛り上がり、情報を拡散し合う土壌ができていた。この点も、UGCを中心に話題化を目指す今回の戦略と相性が良かったと田中氏は付け加える。
ファンの心に火をつける4つの施策アプローチ
20代女性に人気のタレントを起用する手法自体は珍しくないが、今回の施策では「視聴者と同じ目線で語りかける」状態をつくるために、タレント起用をゴールにするのではなく、そこから先の「発話の連鎖」を生む動線設計に力を注いだという。
施策の実行フェーズについて、田中氏は主な4つの施策を挙げた。
1.WebCMの制作
「毎日のケアで自己肯定感を高める」というメッセージを軸に、超とき宣の10周年とブランド20周年の世界観を自然に重ねた。具体的には、10年間の彼女たちの歩みを見せることで、「日々の積み重ねの大切さ」をエモーショナルに表現した。
2.ブランド初の3日間のポップアップイベント
実際に商品を試せる体験会にメンバーの等身大パネルを設置し、ファンが「推し活」として楽しめるような空間をつくった。ファンだけでなくブランドのターゲットである20代の女性たちもSNSに上げたくなるような細やかな演出をすることで、来場者の自発的なSNS発信につながった。
【POPUPイベント終了🎉】
皆さまご来場いただきありがとうございました!とき宣ハウスのお庭、お楽しみいただけましたでしょうか?沢山の方に遊びに来ていただき、3日間大盛況でイベントを終えることができました✨コラボキャンペーンも引き続きお楽しみください🍀 pic.twitter.com/LOUt3Gko3l— ジョンソンボディケア (@JBC_JP) 2025年10月6日
3. SNS用クリエイティブと広告素材の制作
切り抜き動画やティザー投稿など、ファンの自発的な投稿を促すフォーマットを多数用意して戦略的に投稿した。
4. プレゼントキャンペーン&マストバイキャンペーン
オンライン・オフラインを横断し、購買とUGCを同時に促進する仕組みをつくった。
ジョンソンボディケア×超ときめき♡宣伝部のプレゼントキャンペーンがスタート🧡
フォロー&リポストキャンペーンの参加方法はこちら👇1️⃣ @JBC_JP をフォロー
2️⃣ 本投稿リポスト
🗓️11/30(日)23:59までさらに当選確率UP ⤴️
🧡 あなたの推しジョンソンを使った感想を写真と一緒に投稿
🧡… pic.twitter.com/BLAsRg5W82— ジョンソンボディケア (@JBC_JP) 2025年10月1日
KenvueのブランドチームとPRチーム、そしてNateeが連携し、「何を、いつ、どのプラットフォームで発信するか」を分単位で緻密に計画した。特に、超とき宣のライブ日程とも重なるように施策のタイミングを調整し、自然に話題が生まれる形を目指したという。
「例えば、ライブ会場にジョンソン ボディケア名義のフラワースタンドを設置するなど、公式発表前の段階からファンの皆様に”何かが始まりそう”という予感を持ってもらいました。情報解禁後に“あの時のフラワースタンドはこのコラボのためだったのか”と腑に落ちることで、SNS上での会話が改めて広がっていく。そんな展開を想定しながら準備を進めました」と田中氏。
こうした緻密な計画が「ファンの皆様の期待値やエンゲージメントを高め、施策の成果につながった」と分析する。
ブランド初のポップアップイベントは、商品発売から約1カ月後、店頭展開が本格化した時期に実施した。その結果、ファンによる店頭での商品購入から、SNSへの投稿という理想的な動きをつくることができた。
同時に、SNSでの発話を促すため、「#推しジョンソンを教えて」というテーマでキャンペーンを実施した。同ブランドには6種類の香りがあり、商品カラーが超とき宣のメンバーカラーと連動していたため、ファンが自然に“推しカラーのジョンソン”を選び、投稿したくなる流れが生まれた。田中氏は「ファングッズのぬいぐるみと一緒に撮影・投稿してくれる未来像まで描いて企画を考えました」と語る。
ファンがXでポストした投稿。このような、「超とき宣の推しグッズ」と「推しジョンソン」を撮影した投稿が合計700件ほど見られた
さらに「推し視点」を強化するため、メンバー本人に「自分の好きなジョンソン」を紹介してもらうTikTokコンテンツも展開。メンバーが10秒で“推しアイテム”を紹介する動画を投稿し、「ファンの皆様からも推しジョンソンを見つけてもらえるという確信があった」とブランドマネージャーの松尾氏は綿密にプランニングしたことを明かす。
超とき宣メンバー菅田愛貴さんのInstagram投稿
同じく坂井仁香さんの投稿
投稿のタイミングは、ローンチ直後とポップアップイベント開催時期に最大の「山」を設定。その期間は毎日コンテンツを投稿した。その後、キャンペーン期間を通じてペースを落とし、終了直前にカウントダウン投稿で再び盛り上げるなど、PR視点から「熱量の波」にメリハリをつけた設計を心掛けたと大山氏は語る。
数字にも現れた”ファンダム設計”の手応え
施策の成果について、松尾氏は「発売から2カ月ほど経過した今も非常に好調」と語る。売上は目標を達成し、ジョンソン ボディケアのブランド全体でも、ブランド伸長率No.1(*1)を記録した。
ブランド全体の売上も前年比15%増となり、同商品はすでにブランド内ランキングで3位に入る人気商品に。美容プラットフォーム「LIPS」や美容雑誌「LDK」で高い評価を受け、ベストコスメも複数受賞した。
松尾氏は「大手の競合から新商品が多数発売された中で、狙い通り『初速の山』をしっかりとつくれたのは大きな成果と考えています」と手応えを語る。
ポップアップイベントは目標の3倍以上の来場者を記録し、テレビや新聞を含むメディア露出も目標の2倍を達成。「社内からは『目標が高すぎる』との声もあったが、それを大きく上回る結果を出せた」と松尾氏は振り返る。
スキンヘルスカテゴリーのマーケティングマネジャーを務めるレイコック・エイミー氏も、「今回の結果には本当に驚かされました」と話す。
「ブランド特性と、超とき宣のファンダムとの相性が極めて高く、それが成功を後押ししました」と総括し、「売上の達成以上に、生活者との距離が縮まったことは、我々にとって非常に大きな価値があります」と続けた。
Kenvue/JNTLコンシューマーヘルス ブランドマネジメント部 スキンヘルス マーケティングマネージャー レイコック・エイミー 氏
エイミー氏によれば、アイドル文化を活用したこのようなプロモーションが成功する背景には、日本市場の独自性があるという。韓国など類似の市場はあるものの、日本ほどファンダムが強力な市場は少ない。そのため、今回は「グローバルブランド」としての一面も大切にしつつ、日本の生活者のインサイト深く探り、それに合わせて施策を最適化した点が成功の鍵だったと分析する。
ブランド初のアイドル起用施策ということもあり、社内からは「本当にうまくいくのか」「ブランドに対しての好意度も上げられるのか?」といった厳しい懸念の声も上がっていた。しかし、松尾氏らは戦略を丁寧に説明し、生活者インサイトに基づいたプランであることを訴え続けることで、最終的に社内の理解を得ることに成功した。
エイミー氏が今回の取り組みで難題だったと語るのは、「誰を起用するのがブランドとして最適か」という判断だ。最終的には「若い世代が自分に自信が持てるように後押しする」というジョンソン ボディケアのブランドテーマと、超とき宣が発信するメッセージ、そして推しを全力で応援するファンの温かく熱狂的な空気感が合致したことが起用の決め手となった。
本施策におけるマーケティング支援をNateeが担ったことを踏まえて、田中氏は、Nateeの強みを「ソーシャル上で”生活者の発話を起点に”話題化を設計する力」だと強調する。誰が何を言うか、どのように発話が生まれるかを徹底的に分析し、ブランドとタレントの相性を極限まで高めることを目指した。その過程では、膨大な数の語り手(インフルエンサーやタレント、アイドルなど)候補を検討し、ブランド視点とソーシャル視点の両面から検討を重ね、起用タレントの解像度を上げていったという。
コミュニティを動かすUGC設計3つの原則
今回の事例のような考え方は他の業種やカテゴリーにも応用できる。Nateeの田中氏はプランニングの際のポイントを3つ挙げた。
1つ目は、「すでに存在する熱源」を見つけてブランドとつなぐこと。ブランドの周囲には、すでに高い熱量を持つコミュニティが存在する。アイドルファンに限らず、ママ、ゲーム、美容、スポーツなど、“語りたい人たち”とブランド世界観の交差点を探すことがUGC戦略の出発点となる。
2つ目は、「どんなUGCを増やしたいか」から逆算すること。投稿数のみを目標にするのではなく、「どんな写真・言葉・レビューが並ぶと購買につながるか」を定義し、キャンペーンやクリエイティブを設計する。これは飲料・日用品・OTCなど幅広い領域で有効だ。
3つ目は、「初速の山」と「熱量の波」を設計すること。ローンチ期とイベント期に発信を集中させ、前後にティザーやカウントダウンを出すことで“山”と“波”を意図的につくる。限られた予算でも、「どの期間に何を投下するか」「どこで最も熱を生むか」をデザインすることで十分な話題化が可能になる。
こうした「コミュニティ×UGC×スケジュール設計」は、タレント起用の有無にかかわらず、多くのカテゴリーで活用できるフレームだという。
Kenvueの挑戦が示す、これからのブランドづくり
今回の取り組みを通じて、Kenvueが見据えるのは、単発の話題づくりではなく、生活者との関係を継続的に育てていくことだ。インフルエンサーの発話やUGC醸成を中長期でどう設計するかが重要になる。
NateeはこうしたKenvueの挑戦に伴走し、年間を通じた話題設計や購買までの動線、コミュニティづくりを支援していきたいという。田中氏は、「SNSやクリエイターは、プロモーション手段というより、ブランドと生活者が一緒に世界観を育てる場になりうる」と指摘した。
お問い合わせ
株式会社Natee
Mail:pr@natee.co.jp
URL:https://natee.jp/






