球団はなぜ、自ら映画を制作するのか。YouTubeや有料動画配信サービスなど、多様な映像コンテンツが溢れる中で、あえて「映画」というフォーマットを選ぶ理由。そこには、シーズンを通してチームを応援し続けたファンへの、特別な想いが込められていた。制作を担当した福岡ソフトバンクホークス ブランド推進本部の南出敏伸氏に、その真意を伺う。
配給はローソン・ユナイテッドシネマ、製作は福岡ソフトバンクホークス。興行収入の範囲内で製作費を捻出している。協賛社(エム・ティ・ネット、九州旅客鉄道、昭和建設、ダイナミックプラス、ネオマルス、ファナティクス・ジャパン)は映画をファンに届けたいという球団の思いに共感して名を連ねている
YouTube、ホークスTV、そして映画。それぞれの役割とは
福岡ソフトバンクホークスが、球団制作の映画を手掛けるのは今年で3作目。チームに1年間密着するドキュメンタリー形式としては、2024年公開作品に続き2作目となる。
「もともと私たちは、球団公式YouTubeや、有料動画配信サービス『ホークスTV』といったオフィシャルコンテンツを制作しているチームです。その映像制作の延長線上に、映画という事業が生まれました」と南出氏は語る。
彼らが手掛ける映像コンテンツは、媒体ごとに明確な役割分担がなされているという。YouTubeは、無料で誰もがアクセスできる最も開かれたプラットフォーム。選手の入団会見や優勝祝賀会といった球団行事、あるいはグルメ開発などの事業プロモーションといった、広く世間に知ってもらいたい情報を発信する場だ。
一方、「ホークスTV」は月額制の有料サービス。より熱心なコアファンに向け、球団が持つ詳細なデータ(球速・回転数など)を活用した専門的な選手インタビュー企画や、YouTubeではあまり光の当たらないファーム(2軍)の選手に密着したコンテンツなどを配信している。
ホークスTV「撮っておき☆WEEKLY筑後」企画。プロ野球の「支配下登録選手」は1球団70人までで統一。一方で「育成選手」は人数制限なしで、ホークスは12球団で一番多い。選手層が厚く競争が激しい4軍制(来シーズンから3軍制に)を敷いていたため、2軍のレベルが高く、毎年ウエスタンリーグ(2軍リーグ)で優勝を争っている。また若手選手が1軍に上がって活躍する事例も多く、ファンは将来スターになるかもしれない選手を応援したいという気持ちが強い
では、その中で「映画」が担う役割とは何なのだろうか。
ファンに届けたいのは「球場に近い臨場感」
「1年間の集大成であるドキュメンタリー作品を、ファンの皆さまに最高の環境で届けたい。その想いがまずありました」と南出氏。大画面、大音量で味わう迫力のある映像。それは、他のどのメディアにも代えがたい体験だ。特にドキュメンタリーは没入感が重要と語り、「映画館という空間は、その没入感を最大限に高めてくれる場所です」と説明した。

