AIで物語を描く
YouTubeでAI生成の短編映画を公開する「STUDIO異次元」は、クリエイターのKさんとプロデューサーの渡邉梓さんによる夫婦ユニットだ。映像制作の経験はなかったものの、AIツールの活用とネットコミュニティでの情報収集を武器に制作を始め、2024年11月時点でチャンネル登録者数は5万2500人に達した。
「最初は完全に下心でした」とKさんは語る。2024年3月、「AIで稼げる」という情報をきっかけに生成系AIに触れ始めた。当時流行していたのはPV風の大味な映像が多く、「誰もストーリーをつくっていなかった。映像も音声もつくれるのだから、自分たちは物語をつくろうと思いました」と振り返る。
同年7月にYouTubeチャンネル「異次元劇場」を開設。12月に投稿した「【SCP-2935の物語】あゝ死よ【AI短編映画シリーズ第11弾】」は150万回再生を突破し、登録者数は1カ月で500人から2万人に急増した。
【SCP-2935の物語】あゝ死よ【AI短編映画シリーズ第11弾】」作中カット。
題材としての「SCP財団」
STUDIO異次元作品の大きな特徴は、「SCP財団」を題材にしている点だ。2008年に開設された「SCP財団」は、“超常的な存在を収容・研究する架空の秘密組織”を舞台に、ユーザーがWiki形式で物語や設定を投稿する共同創作プロジェクト。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで運用されており、クレジットとライセンス条件を守れば二次創作も可能だ。
SCP財団のコンテンツは大半がテキストベースで、科学・ホラー・SFを横断する豊富な設定が揃う。更新頻度が高く、世界中に熱心なファンがいるので、AI映像化との親和性は高い。著作権面での扱いやすさも手伝い、「題材としてこれ以上ない」とKさんは語る。
もうひとつの特徴は、キャラクター性に重点を置いたこと。「AIコミュニティではキャラクターを前面に押し出した映像作品は少なかった。リップシンク技術も進化していたので、キャラクター重視の作品づくりに振り切りました」とKさん。「マーベル作品のように、作品間で世界観やキャラクターを共有して、ひとつの世界を築こうとしています」と渡邉さんも説明する。



