なぜ新幹線駅・空港に広告掲出するのか――地元銘菓と地場企業のお出迎え戦略

新幹線の改札を抜けた瞬間、あるいは空港に降り立った直後。そこは単なる交通の結節点ではなく、人の気持ちが切り替わる「境目」のような場所でもある。帰省、旅立ち、出張、再会。多くの感情が交差するその瞬間に、あえて広告を置く。地元銘菓や地場企業が駅や空港で展開する広告には、即時的な購買や問い合わせを超えた、共通した思想が見えてくる。

「おかえりなさい」と「いってらっしゃい」を可視化 JR浜松駅×春華堂「うなぎパイ」

写真 JR浜松駅×春華堂「うなぎパイ」

JR浜松駅の新幹線改札を出ると目に入る、巨大な「うなぎパイ」の広告。それは、強いコピーやキャンペーン訴求で注意を引くタイプの交通広告とは一線を画している。掲出の背景について、春華堂(浜松市)の広報担当者はこう振り返る。

「駅やサービスエリア、空港は、人の気持ちが『移動』とともに切り替わる場所です。帰省や旅立ちのタイミングに、『地元を思い出す』『誰かを思う』といった感情が自然と生まれる、特別な場だと考えています」

1961年に誕生したうなぎパイは、「浜松・遠州の手土産」として地域の中で育ってきた。高度経済成長期に東海道新幹線や高速道路が整備され、人の往来が活発になる中で、その存在は徐々に全国へと広がっていった。そうした歴史を踏まえ、春華堂は駅や空港を「販売拠点」ではなく、「記憶と感情が交差する場」として捉えている。

掲出場所の選定についても、単純な人通りの多さではなく、「人の心が動く接点になるかどうか」を重視してきたという。新幹線駅や空港は、地元の人にとっては「帰る場所」「送り出す場所」であり、来訪者にとっては「地域と最初に出会う場所」だ。そうした意味が重なり合う場所だからこそ、うなぎパイの広告は成立すると考えられている。

帰省シーズンに込めたメッセージについて、広報担当者は次のように語っている。

「伝えたかったのは、『おかえりなさい』『いってらっしゃい』といった、家族のだんらんを想起させる言葉です。うなぎパイは、長年そうした言葉とともに、お客様同士の間で手渡されてきたお菓子でした」

実施後には、「見慣れた風景で、ほっとした」「帰省のタイミングで広告に出迎えてもらった」といった声が寄せられている。春華堂自身も、「広告としての強い主張を前面に出すのではなく、静かに寄り添い、お客様自身の受け止め方に委ねるコミュニケーションを大切にしている」と考える。駅の出口で出会うその姿は、まさに地域の記憶と重なり合う存在だ。

画像説明文

JR浜松駅構内の柱を1本活用した大型の透明有機ELディスプレイ使用したサイネージ。筐体全体をうなぎパイの包装紙デザインで装飾を行い、大きなうなぎパイパッケージをイメージした。同メディアを活用して自社商品のアピールだけでなく、浜松まつりなど地域の情報も伝えている

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