AIによる超パーソナライズの弊害 オールドメディアの逆襲

2026年、広告とマーケティングはAIによる超パーソナライズが深化する一方で、その行き過ぎに対する揺り戻しを迎える。2026年は五輪やW杯といった国際的スポーツイベントが重なるスポーツの年だが、人々が同じ瞬間や感情を共有する“一体感”の価値を改めて再評価する年でもある。神戸大学大学院の栗木契教授は、過度な個別最適化が生む違和感や分断を指摘しつつ、マス・メディアやリアルな体験を通じた「一体感」が再評価される未来を展望する。AI時代だからこそ問われる、人間と社会をつなぐマーケティングの役割とは何か。

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栗木契

神戸大学大学院 経営学研究科 教授

1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はアントレプレナー・マーケティング、ビジネス・モデル。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』など。『エフェクチュアル・シフト』が日本マーケティング本 大賞2025を受賞。

2026年、AI活用に揺り戻し

2026年の広告とマーケティングに何が起こるか。そこではインターネットやAIを活用したデジタル化が一段と進んでいく一方で、その活用方法の見直しが生じていくだろう。たとえば、2025年には自動車産業でEVの普及に停滞が生じたように、ビジネスやマーケティングのトレンドは一直線に進展していくわけではない。広告やマーケティングにおけるデジタル化が止まることはなくとも、そこでの人間の役割をめぐって見逃せない転換が生じることが予測される。

この数年、市場調査、商品企画、広告制作、営業企画といったマーケティングのさまざまな業務にAIが活用される動きも急速に広がっている。そのなかで広告やマーケティングの調査、分析、企画立案、クリエイティブ作成など、各種の業務を進めていくうえで人間が行っていた仕事の多くが、AIに置き換えられたり、そのサポートを受けたりするようになっている。

しかし、消費とマーケティングは、そもそもは人間が人間のために行う活動なのであって、AIがAIのために行う活動ではない。そこで顕在化しつつあるひとつの問題を見ていこう。

過剰なパーソナライズによる不気味の谷現象

ネットでのプロモーションでは、パーソナライズされたメッセージを効率的に発信できる。Web空間では、BtoCであれ、BtoBであれ、受信者の行動履歴などを踏まえて個別最適化された情報を、バナー広告、メルマガ、SNS、動画共有プラットフォームなどを通じて送信できる。そこでは、受け手の日々の行動や興味関心などを踏まえて、一人ひとりに合った製品やサービスの情報をタイムリーに届けることができる。ネット上のプロモーションでは、情報を無駄打ちする非効率を避けながら、個々人の必要の違いに応じた効果的な情報を届けることが容易になる。

とはいえ、このパーソナライズを徹底化していけば、どうなるか。現在のマーケティング環境では、ネット上の履歴に加えて、個人の日々のリアルな行動の情報もモバイル端末などから入手可能なわけであり、こうした情報をもとにAIを用いてパーソナライズを行い、極めて個別性の高いレコメンデーションを行うことができる。しかし、このようなレコメンデーションを受けとる人は、それをどのように感じるか。

パーソナライズを徹底化していけば、たとえばそこでは、「○○症の傾向があるあなたが、来週会う予定の××な友人から、△△!と賞賛されるには、このフレグランスがお奨め。なぜならば……」といったメッセージが届くことになる。そこで提供されているのは、その場そのときに、その人だけが感じている必要や欲求にこたえるピンポイントの情報である。

しかし、このようにパーソナライゼーションを徹底した情報を受けとったあなたは、それをどのように感じるだろうか。たしかに、このメッセージは、あなたに合った情報を提供してくれている。しかし同時に、あなたのプライバシーの細部が、第三者につかまれている気持ち悪さも感じてしまうのではないだろうか。

過度のパーソナライゼーションは、その受け手が「寝室をのぞかれているようだ」と感じるようなメッセージになり、受け手の反発や拒絶感を高めてしまう。したがってAIなどを駆使してパーソナライゼーションを徹底化していくと、プロモーションの効果が落ちるということが起こる。広告やマーケティングのデジタル化が進んでいくなかで、今後のパーソナライゼーションでは、特定の個人の領域には踏み込み過ぎない配慮が必要になっていくだろう。

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