その1つがブランドライティングだ。多くのブランドの思いを形にしてきた蛭田氏に、AIに代替されないために必要な思考法とこれからのライティングの可能性について伺った。
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Macが起こした革命
言葉というものは使われるほどにインフレが起きます。「革命」という言葉は、今や手垢にまみれ、本来の重みを失っています。たとえば「革命的なスピード」という場合、それは「すごいスピード」とほぼ同義です。しかし本来の革命とは、1917年のロシア革命のように、権力の担い手や構造が根こそぎ入れ替わる劇的な変化を意味します。僕は30年以上、コピーライターとして仕事をしてきた中で、広告業界、クリエイティブ業界において、2度の「革命」を体験しました。
1度目の革命はMacによるDTP革命です。僕がキャリアをスタートさせた1994年当時、広告制作は完全なアナログ作業でした。写植機のオペレーターが1文字1文字を印画紙に焼き付け、デザイナーがそれをカッターで切り、ピンセットで版下に貼っていく。まさに職人の世界です。Macはその世界を一変させました。ベテランよりも、Macを自在に操れる新卒社員のほうが現場で重宝される。熟練の技巧よりも、新しいテクノロジーへの順応力が価値を持つ。そんな逆転が起きたのです。
言葉という最後の砦
2度目の革命はインターネットです。インターネットの登場により、新聞やテレビが「伝える側」、一般の人々が「受け取る側」という一方通行の構図が崩れました。SNSがそれを加速させ、個人がメディアを持ち、その発信が影響力を持つ時代になりました。新聞やテレビを指す「オールドメディア」という言葉は、フランス革命における「アンシャン・レジーム(旧体制)」を彷彿とさせます。まさに革命と呼ぶにふさわしい構造の転換でした。
この2つの革命は、広告やクリエイティブの分野に多大な影響を与えました。しかし、コピーライターへの影響は限定的だった。なぜか?それは言葉がなお、人間の領域にとどまっていたからです。言葉は人間の思考そのものであり、意味の集積です。当時、コンピュータにそれを理解する能力はなく、だからこそコピーライターにとって、この2つの革命はどこか対岸の火事でした。「言葉だけは機械に奪われない」。そう信じて疑わなかったのです。
AIが人間らしい言葉を書く時代
ところが今、3度目の革命が起きています。生成AIによる革命です。AIはテキストを理解し、文章を記述します。文法的に正しいだけでなく、自然で、読みやすく、「人間らしい」と感じられる文章も書けるようになりました。テクノロジーの進化が、いよいよ言語表現の領域にまで踏み込んできたのです。これまでコピーライターが持っていた特権が、AIを活用できるすべての人に解放されようとしています。
最悪の未来を想像してみましょう。コピーはすべてAIが書く。キャッチフレーズも、動画のナレーションも、プロモーションの文章も。AIが無数のパターンを生成し、ABテストで効果を検証し、最も反応の良いものが採用される。すべてがアルゴリズムによって最適化され、人間の感情もデータとしてモデルの中に取り込まれていく。そのとき、コピーライターという職業はどうなるのでしょうか。2度の革命を目の当たりにしたからこそ、僕はこの問いを重く受け止めます。
重要な点は、たとえそのような未来になっても、「企業」がなくなることはない、ということです。「ブランド」や「商品」がなくなることもありません。そして、誰かがつくったものには、必ず背景となる物語があり、その価値を伝えるための「言葉」が必要です。
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