AIには書けない50%の部分
ここで、僕が取り組んでいるブランドライティングの話に移ります。僕の定義するブランドライティングとは、企業やブランドに寄り添い、そこに込められた理念や想いを言葉にする仕事です。経営理念、ブランドスローガン、ブランドステートメント。さらには、webサイトの製品説明、SNSでの発信、製品に添えるプロダクトカードの文言。それらは広告コピーとは異なります。一時的な売上ではなく、ブランドの世界観そのものを構築する言葉です。
その模範的な例として挙げたいのが、エルメスです。エルメスは一般に「高級ブランド」と見られています。高価な革製品、バーキンというアイコン、セレブリティの持ち物。多くの人がそういうイメージを持っている。しかし、エルメスの公式サイトを見ると、そこでは違う一面が見えてきます。エルメスがどれだけ高い意識と美学を持ってものづくりを行っているか。職人の技術への敬意、素材への真摯な向き合い方、時代を超えて受け継がれる伝統。それらが、丁寧に、しかし誇張なく記されています。高級品を売るための美辞麗句ではなく、ブランドの哲学を形にした言葉です。そして、その軽やかで品のある文章は、インスタグラムやニュースレターでの製品説明まで、同じトーンが貫かれています。あらゆる接点でブランドの世界観が一貫している。それこそが理想的なブランドライティングです。
しかし、こう考える方もいるかもしれません。「それだってAIに書けるのでは?」。半分は正解です。適切なプロンプトを与えれば、AIはそれらしいブランドステートメントや製品説明を瞬時に生成します。しかし残りの半分、人の想いを掘り起こし、それを物語にすることは、まだAIには担えません。経営者や技術者、生産者と「対話」し、その哲学や価値観を理解する。そこから理念や想いを見出し、最もふさわしい言葉を探り当てていく。人間は話を聞くとき、発せられた言葉だけでなく、感情の変化や間の取り方、沈黙といった情報も同時に受け取ります。しかしAIは言葉にならない情報を読み取ることができません。
ブランディングが生む価値
「想いを言葉にする」というと、何やらひどく情緒的な仕事のように聞こえるかもしれません。「きれいな言葉を並べたところで、売上は上がるのか?」と。しかし、ブランドをつくることはビジネスの本質に関わる行為です。
機能やスペックは模倣される運命にあります。一方で、そのブランドがどのような背景から生まれ、どのような価値観によって磨かれてきたのかという文脈は、他者には代替できません。「唯一の物語」を持つこと。それはビジネスにおいて「替えのきかない価値」を持つことと同義です。「日本酒が欲しい」ではなく、「福井の黒龍酒造の日本酒が欲しい」と思わせる。カテゴリーではなく銘柄で選ばれる。それこそが差別化であり、顧客との間に長期的な信頼を生み出します。ここにブランディングの経済的価値があるのです。
これからのコピーライターに問われるもの
世の中には素晴らしい製品が数多く存在します。しかし、どれほど優れた製品をつくっても、適切な言葉で表現できなければ、その価値が広く知られることはありません。まだ形になっていない価値を掘り起こし、言葉という輪郭を与えることで、その価値を顕在化させる。僕はブランドライティングの仕事をそのようなものと捉えています。
ここまで読むと、僕がAIを否定しているように感じるかもしれません。実際は逆です。アシスタントやチームを持たないため、コピーライターの中でも、僕はかなりAIを活用しているほうだと思います。ライティングの助手として、アイデアの壁打ち相手として、文章の校正係として。用途に応じて、複数のAIを使い分けています。だからこそ、AIにできることとできないことの境界線が見えてくる。単に文字を埋めるだけのライティングは、今後AIに置き換わっていくでしょう。一方、多くのものがAIで生成され、画一的なものがあふれる時代だからこそ、ブランドに寄り添い、唯一の物語を言葉にするスキルが、いっそう重要になっていく。
第3の革命の渦中にいる今、コピーライターに問われているのは、AIと対立することではなく、AIといかに共創していくか。そして、「どう書くか」ではなく、「何を書くか」。これは昔から言われてきたコピーライティングの本質ですが、AIの時代を迎えて、その意味がいっそう重くなっていると感じています。

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