「空冷ワーゲン、ただいま製作中」——。
一見すると何気ない整備日誌。しかしその投稿が、全国の空冷ワーゲンファンだけではなく、旧車ファンの目に留まり、広告費をかけても届かなかった層を惹きつけることになった。この成功を手にしたのは、東京都八王子市にある創業40年、空冷ワーゲン専門ショップ「ガレージタイプワン(以下タイプワン)」の工場長・小林良作氏である。25年以上にわたって整備士一筋だった小林氏が、スマホ一つで業界トップクラスの集客を実現した背景には、デジタルの力だけでは語れない“顧客視点”と“仕組み化された継続”があった。
本記事では、Webサイト・SNSを通じて問い合わせゼロから、人気工場へ変貌を遂げた実録ストーリーを紐解きながら、小規模事業者やマーケティング初心者にも再現可能な“ひとりマーケティング”の極意に迫る。
雑誌激減 3カ月問い合わせゼロ
空冷ワーゲンとはフォルクスワーゲン社製の“空冷水平対向4気筒エンジン“を搭載した車両の総称。ドイツの国民的自動車として1938年から〜2003年まで製造され、現在も世界中にファンがいる。
その空冷ワーゲンを専門に取り扱うタイプワンのWebサイトが開設されたのは、2001年。当時の企業のホームページ開設率は77.7%。情報発信は新聞、テレビ、ラジオ、雑誌が中心で、「ホームページが集客に役立つ」とは考えられていなかった。ところが2010年代に入り、紙媒体の発行頻度が激減。専門雑誌が次々と休刊になる。そして、2017年、タイプワンにもその影響が出てきた。広告出稿先が激減し、新規顧客からの問い合わせが3カ月間ゼロという異常事態が発生したのだ。
「さすがにおかしいと思いましたが、サイト制作をやっているお客さんから『ホームページが古いままだね』と言われて、ハッとしたんです」
きっかけは些細な会話だったが、小林氏の危機感は強かった。そこで、お客様のアドバイスを聞きながら、独学でSEOや写真の見せ方を学び、Webサイトを全面リニューアルした。一般的な中古車販売サイトのようなつくりをしていた販売中車両の詳細ページは写真を増やし、空気感が伝わるような文章を載せるようにした。販売前の車両は製作の様子を「ただいま製作中」という新コンテンツで公開した。それまで、作業日誌としてつけていたブログからもWebサイトにリンクをはり、コンテンツも連動させた。その効果はすぐにあらわれる。リニューアル直後から週に1回の問い合わせが来るようになったのだ。
「よい商品があるだけじゃ売れない。検索され、見つけてもらえるようにする。そこがようやくスタートライン」
マーケター誕生の瞬間だ。
ガレージタイプワン工場長 小林良作氏
