大阪で2025年11月28日に開催された「宣伝会議サミット/環境ビジネス・カンファレンス in Osaka」で、成熟市場における差別化の鍵となる「顧客体験(CX)」と「IP(知的財産)活用」をテーマにした2つのセッションが行われた。 最初に、くら寿司の岡本浩之氏が登壇し、回転寿司を単なる食事の場から「記憶に残る楽しさ」を提供するエンターテインメント空間へと進化させた独自戦略を語った。続いて、ジェイアール東日本企画(jeki)の鈴木寿広氏が登壇し、急成長するアニメ市場を背景に、企業がIPを活用してブランド価値を高めるための具体的な手法と成功事例を解説した。
回転寿司の本質は「効率」ではなく「楽しさ」
本講演では、全国で542店舗を展開するくら寿司の岡本浩之氏が、同社のCX(顧客体験)戦略の中核にある「記憶に残る楽しさ」について解説した。 現在、多くの大手回転寿司チェーンが廃棄ロス削減や効率化のために回転レーンを廃止し「注文品のみが届く」スタイルへ移行する中、くら寿司は「お寿司が回ってくる楽しさ」こそが回転寿司の本質であるとし、回転レーンを維持し続けている。岡本氏は「注文したものだけが来るなら、それは回転寿司ではない」と断言し、アナログな回転の楽しさにデジタルやエンターテインメントを掛け合わせることで、来店動機を生み出していると語った。
その象徴が、2000年に導入された「ビッくらポン!」である。その開発の原点は、1996年に導入した「水回収システム」にあった。当時、女性客から「食べたお皿を積み上げるのが恥ずかしい」という声があり、投入口にお皿を入れると水流で洗い場まで運ばれる仕組みを開発した。すると、子供たちが競ってお皿を入れたがる様子が見られたため、そこにゲーミフィケーションの要素(5皿で1回ゲーム)を加えたのが始まりである。単なる省力化システムを、顧客を楽しませる装置へと昇華させた好例である。
「推し活」を取り込むコラボ戦略とスマホ注文の革新
くら寿司は2005年の『釣りバカ日誌』を皮切りに、IPコラボレーションを積極的に展開してきた。特に近年は「推し活」需要を取り込み、アニメ(『鬼滅の刃』『ちいかわ』など)だけでなく、アーティスト(Ado、BT21、にじさんじなど)とも協業し、幅広いファン層の来店を促進している。 岡本氏は、コラボの成功要因として「くら寿司でしか手に入らないオリジナルグッズ」の重要性を挙げた。例えば『名探偵コナン』コラボでは、原作ファン心理を考慮し、人気キャラが「ハズレ演出」で失敗する描写を避けるなど、ファンの熱量に寄り添った細やかな配慮を行っている。
また、「スマホで注文」の導入により、顧客単価アップという経営課題も解決している。従来の「ビッくらポン!」はお皿(寿司)のみが対象だったが、スマホ注文ではサイドメニューやドリンク(550円ごと)でもゲーム対象となる。これにより、「ビール1杯で1回回せる」ことになり、これまで参加しづらかった父親層なども積極的に注文するようになり、客単価向上に寄与している。
大阪・関西万博での挑戦と「世界への発信」
2025年の大阪・関西万博においては、「回転ベルトは、世界を一つに。」をテーマに出店し、約70カ国の料理を再現して提供した。大使館に足を運び、現地の味を徹底的に再現するプロセスを経て開発されたメニューは大きな話題を呼び、期間中に約31万人が来店した。 特に人気だったのは寿司ではなく、ハンガリー料理の「鴨のロースト トリュフソース」であり、これが全メニューの中で売上1位を記録した。
岡本氏は、万博に来られなかった顧客のため、12月から全国の店舗でこれらの世界メニューを月替わりで提供することを発表。常に「次はどんな面白いことをするのか」という期待感を持たせ続けることが、くら寿司のブランド力に繋がっていると締めくくった。
急成長するアニメ市場と「3対7」の法則
続いて登壇したjekiの鈴木寿広氏は、冒頭でくら寿司の事例に触れ、企業とIPのコラボレーションにおける理想的なバランスを「3対7」または「4対6」と表現した。企業のブランド世界観(7割)の中にIP(3割)を落とし込むことで、単なるキャラクター等の貼り付けではない、ファンが喜ぶ企画が生まれると解説した。
日本のアニメ産業市場はここ20年で約3倍の3兆円規模に成長しており、特に2016年の『君の名は。』以降、そしてコロナ禍での配信普及により海外市場が爆発的に拡大している。鈴木氏は、アニメはもはや子供のものではなく、「推し活」や「聖地巡礼」など、消費者が行動しお金を使いやすい巨大な経済圏(エンタメ産業全体で輸出額は鉄鋼・半導体を超える規模)になっていると指摘した。
IP活用の3つの手法と成功事例
鈴木氏は、企業がIPを活用する際の手法を大きく3つに分類して解説した。
1. タイアップ: 映画やドラマなどで主に行われる。企業はキャンペーン展開への活用等で露出協力を行い、版権元は素材を提供する「バーター(Win-Win)」の関係。金銭授受は基本発生しない。
2. 販促使用契約: アニメ・キャラクターなどをキャンペーンに起用する際、契約料やロイヤリティを支払う手法。
3. 商品化契約: IPを用いた商品を製造・販売する契約。売上に応じたロイヤリティ(上代×製造数×5〜8%程度)が発生する。
具体的な成功事例として、以下の3つを紹介した。
• JR東日本 ポケモンスタンプラリー: 首都圏のインフラ(駅)と、ポケモンの「収集する」特性を掛け合わせた事例。「3対7」の法則が機能し、多数の方が参加する大型恒例イベントとなっている。
• ゴールデンカムイ×サッポロ クラシック: 北海道を舞台にしたアニメと、北海道限定ビールという「地域性」の親和性を活かしたコラボ。2018年の開始から8年間で受注数が4倍以上に伸長し、シェア拡大に貢献した。
• 映画『天気の子』×バイトル: 映画内の主人公がアルバイトを探すシーンに、実際のサービス画面を登場させるプロダクトプレイスメントを実施。インナーブランディングとしても成功の鍵となった。
接着点が完璧だと話題化する
鈴木氏は、IP選定において「人気作品であれば良いわけではない」と強調した。重要なのは、企業のブランドや商品とIPとの「接着点(マッチング)」である。 例えば、JR東日本の「Suicaのペンギン」は、Suicaというサービスとの相性が抜群だったため定着した。また、北海道の事例のように「聖地巡礼」を仕掛ける際も、企業側が「聖地です」と押し付けるのではなく、ファンが自発的に動きたくなる動線を黒子として設計することが重要だと説いた。
最後に鈴木氏は、日本のアニメIPは世界中から求められており、企業がこれを活用することは、国内外の市場でブランド価値を高める強力な手段になると展望を語った。
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