「宣伝会議サミット/環境ビジネス・カンファレンス in Osaka」が2025年11月28日、大阪で開催された。ロングセラーブランドの老化や、デジタル広告におけるCPA高騰といった課題に対し、企業はいかにして新たな顧客接点(カテゴリーエントリーポイント)を創出すべきか。本レポートでは、発売40周年を迎えた「シャウエッセン」のタブーを破る戦略で「マーケター・オブ・ザ・イヤー2025」を受賞した日本ハムの中村雄介氏と、SNS上の口コミ(UGC)を起点にブランド価値を再定義する手法を提唱するPLAN-Bの森山佳亮氏の講演を詳報する。両セッションに共通するのは、企業側の「伝えたいこと」を一方的に発信するのではなく、消費者の「リアルな文脈」に寄り添い、ブランドの在り方を柔軟に変革する姿勢であった。
40年目の危機感と「不文律」のリデザイン
1985年の発売以来、パリッとした食感で愛され続けてきた「シャウエッセン」。しかし、発売から40年が経過し、コアファンの高齢化(50代以上女性が中心)や、食卓出現頻度が朝食・昼食に偏っている(夕食出現率は約20%)という課題に直面していた。
本講演に登壇した中村氏は、ブランドの持続的成長のためには、若年層の取り込みと食シーンの拡大が不可欠であったと語る。そこで着目したのが、社内を支配していた「不文律(暗黙のルール)」の存在である。「ウインナーは朝食べるもの」「ボイル調理が一番美味しい」「パッケージで味を説明すべき」といった、長年の成功体験が作り上げた固定観念をあえて可視化し、リデザイン(再設計)することで、新たなカテゴリーエントリーポイント(CEP)の創出を狙った。
「夜味」の開発とタブーへの挑戦
夕食シーンを開拓するために開発されたのが、新商品「シャウエッセン 夜味(よるあじ)」である。ターゲットを「30〜40代の働き盛りの男性」に定め、彼らが夕食に求める「濃い味」「ご飯に合うおかず」というニーズを満たすため、従来品よりもスパイスを効かせた濃厚な味付けに仕上げた。
特筆すべきは、そのネーミングとプロモーション手法である。従来であれば「スパイシー味」「濃いめ味」など味の想像がつく名称にするのが通例だったが、あえて利用シーンを直接的に示す「夜味」と命名。さらに、発売前のティザー広告やテレビCMにおいて「味について一切言及しない」という異例の戦略をとった。「カレー味か?」「いや、まさかの無味か?」といったSNS上での大喜利(UGC)を誘発し、発売前から「#夜味って何」というハッシュタグでトレンド入りを果たすなど、一方的な広告ではなく「話題化」を目的としたコミュニケーションを展開した。
「焼き調理解禁」という最大の不文律破壊
中村氏が「最大の挑戦」と語ったのが、調理方法に関する不文律の打破である。シャウエッセンは35年以上にわたり、「皮が破れて旨味が逃げるため、焼かずにボイルしてほしい(黄金の3分間ボイル)」と訴求し続けてきた。しかし、濃厚な「夜味」は焼くことで香ばしさが増し、ご飯に合う。そこで実施した社内アンケートの結果、社員の88%が実は自宅でシャウエッセンを焼いて食べていることが判明した。
この事実を逆手に取り、「禁じ手とは知っていました。でも、美味しかったんです。」というキャッチコピーと共に、「焼き調理の解禁」を宣言する新聞広告やSNS投稿を行った。かつての「電子レンジ調理解禁」に続くこの自虐的かつ誠実な「手のひら返し」は、多くのメディアに取り上げられ、当初取り扱いのなかったスーパーからの問い合わせが殺到する事態となった。結果として「夜味」は初月販売目標の3倍を超える売上を記録。中村氏は、メーカーの都合(エゴ)ではなく、顧客のリアルな実態に寄り添い、変化を恐れず挑戦する企業風土こそが、ロングセラーブランドを次世代へ繋ぐ鍵であると結んだ。
企業が陥る「伝えたい価値」と「伝わる価値」のギャップ
PLAN-Bの森山氏は、多くの企業が直面する「事業成長の壁」の正体について、企業が思うブランド価値と、生活者が感じる価値の間に大きな乖離(壁)があることだと指摘した。企業は「ラグジュアリーで、成分にこだわった、革新的な商品」と熱っぽく語るが、生活者にとっては数ある選択肢の一つに過ぎず、その熱量は届かない。森山氏は、この壁を突破するためには、「ブランディングの軸に生活者の代表(インフルエンサー)を置く」ことが有効であると提唱する。
企業側の難解なメッセージを、生活者が直感的に理解できる言葉に「翻訳」してもらうことで、初めて価値が届くようになるのである。
資生堂「ファンデ美容液」に学ぶ価値の発見
「翻訳」による成功事例として、資生堂の「エッセンス スキングロウ ファンデーション」が紹介された。発売当初、メーカー側は「美肌育むスキンケアファンデーション」として訴求していたが、爆発的なヒットのきっかけを作ったのは、美容感度の高いインフルエンサーたちの口コミであった。
彼女たちはこの商品を「ファンデのふりした美容液」「もはや色付き美容液」と表現し、その分かりやすい言葉が消費者の心を掴んだ。資生堂はこのUGC(ユーザー生成コンテンツ)から得られた「ファンデ美容液」という新たな価値定義を、公式のプロモーションやコンセプトに逆輸入し、大ヒットにつなげた。森山氏はこれを「価値の発見・反映・発信」のサイクルと呼び、SNS上の声を拾い上げ、それを戦略の中核に据えることの重要性を説いた。
「保存数」で見るインフルエンサー選定とグロースモデル
では、具体的にどのようなインフルエンサーと共創すべきか。森山氏は、単にフォロワー数が多いだけの人物ではなく、「価値伝達力」や「営業力」を持つ人物を見極める必要があると語る。そのための重要な指標が「保存数(保存率)」である。「いいね」は感覚的に押されることが多いが、「保存」は「後で見返したい」「購入を検討したい」という能動的な意思の表れであり、特にPR投稿において保存数が多いインフルエンサーは、商品の魅力をプレゼンする能力が高いと判断できる。また、施策を一過性で終わらせないための「インフルエンサーグロースモデル」も提示された。
1. マッチング: 保存率などを基準に、プレゼン能力の高い人材を選定。
2. PDCA: 投稿の中で「異常値(高い成果)」が出たクリエイティブの要因を分析。
3. アンプリフィケーション(拡張): 成果の出た投稿を広告配信やLP(ランディングページ)に二次利用し、露出を最大化する。
4. ブランド展開: 発見された新たな訴求軸を商品開発やコンセプトに反映させる。
森山氏は、インフルエンサーマーケティングを単なる「認知獲得」の手段と捉えず、売上に直結する「価値の翻訳者」としてパートナーシップを組むことが、これからのブランド戦略に不可欠であると締めくくった。
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