地域資源の循環とブランド価値の再定義:霧島酒造ともち吉の挑戦

地域に根差した企業がいかにして社会課題を解決し、新たな市場を切り拓くかをテーマにした講演イベント「宣伝会議サミット/環境ビジネス・カンファレンス in Fukuoka」が2025年12月12日、福岡で開かれた。
 
前半は、霧島酒造(宮崎県都城市)の奥村隆享氏が登壇し、焼酎製造の副産物をエネルギーに変える「サツマイモ発電」を通じた地域循環型モデルの構築について紹介した。後半は、あられ・おせんべいを製造販売するもち吉(福岡県直方市)の大橋克之氏が登壇し、福岡発の米菓ブランドが「都心・世界・プレミアム」市場へ打って出るための大胆なリブランディング戦略を解説した。

焼酎造りの副産物と「地域資源」への転換

霧島酒造は1916年創業、売上高525億円(2024年度)、「品質をときめきに」をスローガンに掲げ、主力商品「黒霧島」をはじめとする本格焼酎を製造している。登壇したグリーンエネルギー部 部長の奥村隆享氏は、経営戦略やマーケティングの専門家ではなく、現場一筋で歩んできた人物だ。

同社の焼酎造りのこだわりは「100%」にある。麹米には国産米を100%、サツマイモは九州産を100%、仕込み水には都城盆地の地下水「霧島裂罅水(きりしまれっかすい)」を100%使用し、焼酎はすべて地元の自社工場で製造している。

写真 人物 奥村隆享氏

しかし、年間約10万トン、1日あたり約400トンものサツマイモを使用する大規模な製造工程からは、毎日大量の「焼酎粕(850トン/日)」が発生し、サツマイモの収穫期には「芋くず(15トン/日)」も発生する。

かつて2000年ごろまでは、これらの焼酎粕は畑への肥料として農地還元していたが、生産量の増加や法規制の強化により、その処理が大きな経営課題となった。奥村氏は、これらを単なる「厄介者(廃棄物)」として処理するのではなく、天の恵みであるサツマイモから生まれた「宝物(地域資源)」と捉え直し、有効活用する道を探り続けたと語る。

失敗を乗り越えて実現した「サツマイモ発電」

同社が構築したのは、焼酎粕や芋くずをメタン発酵させてバイオガスを取り出し、工場のボイラー燃料や発電に利用するシステムである。この道のりは平坦ではなかった。

2002年、地元企業と組合を設立してリサイクルプラントを建設したが、技術的な問題からトラブルが頻発し、焼酎の製造自体をストップせざるを得ない事態にも直面したという。この苦い経験を糧に、2006年に鹿島建設との共同研究の末、新たなリサイクルプラントを建設。ここでの運用が順調に進み、2012年には生成されたバイオガスを焼酎製造のボイラー燃料として利用することに成功した。さらに、固定価格買取制度(FIT)の導入を機に、使いきれない余剰ガスを活用した売電事業「サツマイモ発電」を2014年に開始した。

このシステムにより生成されるバイオガスは、一般家庭約2万2000世帯分に相当するエネルギー量を生み出す。そのうち、発電される電気量は約2400世帯分に達する。現在では、焼酎製造工程で使用する燃料の約30%をこのバイオガスで賄っており、都市ガス換算で年間2億円以上のコスト削減効果を生んでいる。

また、メタン発酵後の残渣(発酵液)は脱水・分離され、固形分は堆肥として畑に還元、液体分は浄化して放流するという完全なリサイクルループを実現している。
これらの取り組みは、「KIRISHIMA SATSUMAIMO CYCLE」という全体構想のもと、サツマイモが持つエネルギーを地域全体で循環させるモデルへと昇華している。

写真 人物 奥村隆享氏

脱炭素社会への貢献と「地域共生」の新たなフェーズ

霧島酒造は「霧島環境アクション2030」を策定し、2030年度までに工場・事務所からのCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。2024年度時点で2013年度比37%の削減を達成しており、残りの削減分については更なる省エネ施策をはじめ再生可能エネルギーの導入やJ-クレジットの活用などで実現を目指す。

さらに、この「サツマイモ発電」の電力は、地域防災や新たな顧客接点づくりにも活用されている。社用車として導入された電気自動車「e-imo(イーモ)」は、災害時に避難所へ電力を供給する協定を都城市と締結している。 また、2026年1月には、スターバックスとコラボレーションした施設「KIRISHIMA GREENSHIP icoia(キリシマ グリーンシップ イコイア)」をオープン予定だ。この施設の電力もサツマイモ発電で賄う計画であり、環境に配慮した憩いの場を地域に提供する。

写真 人物 奥村隆享氏

奥村氏は、自然の恵みを享受する企業として、地域社会と共生しながら持続可能な焼酎造りを続けることが使命であると強調し、今後は自社だけでなく近隣の焼酎メーカーやレストランからの廃棄物受け入れも拡大し、地域全体を巻き込んだサーキュラーエコノミーを推進していく決意を示した。

全日空商事出身の異色の経歴を持つリーダーが挑む

本講演に登壇したもち吉の大橋克之氏は、新卒で全日空商事に入社し、機内販売やEC、空港店舗の運営などに携わってきた経歴を持つ。2024年にもち吉に入社し、現在は新規事業開発やブランディングを主導している。

創業96年を迎えるもち吉は、売上高238億円、全国に228店舗を展開する米菓の製造小売(SPA)企業である。「米よし、水よし、技もよし」をアイデンティティに、原料から製造、販売までを一貫して行うことで高品質な商品を適正価格で提供し、特にロードサイド店舗を中心に強固な地盤を築いてきた。

しかし、大橋氏は東京での勤務経験から「都心部や電車移動中心の生活者には、ブランドも知られていない、又は『どこで買えるの?』という状態」であり、第一想起(Top of Mind)されるブランドには至っていないと分析する。そこで、「グローバル」「プレミアム」「都心認知」「笑顔(人財)」の4つのキーワードを掲げ、ブランドのステージを変えるための多面的な戦略を展開している。

写真 人物 大橋克之氏

「異業種コラボ」と「プレミアム化」による価値転換の実践

もち吉が取り組むブランド変革の具体策として、大橋氏は以下の4つの事例を紹介した。

1 グローバル・プレミアム(ANAとの提携): 2025年9月より、ANAの国際線ファーストクラス・ビジネスクラスおよび国内線プレミアムクラスの機内食として、もち吉のあられが提供されることになった。これにより、「世界中を飛び回るプレミアムな顧客接点」を獲得し、ブランドの格を一段階引き上げる施策のひとつが実現した。

2 イノベーション(相撲協会×デザイン×鉄鋼): 日本相撲協会設立100周年を記念した商品「決まり手煎餅」を開発。日本デザインセンターの原研哉氏が総合監修を務め、パッケージの缶には日本製鉄のCO2削減素材「NSCarbolex Neutral」を採用した。伝統文化、トップクリエイター、最先端のエコ素材という異色の組み合わせにより、大丸東京店でのポップアップでは連日行列を作るなど、従来の米菓の枠を超えたニュースバリューを創出した。

3 都心認知・若年層開拓(キャラクターコラボ): サンリオキャラクターズや、JR九州と連携したスーパーマリオとのコラボレーションを実施。普段もち吉を利用しない層や、JR九州関連店舗での展開を通じて、新たな顧客層へのリーチを図っている。

4 組織風土の変革(PR会議): 社内の意識を「営業志向(Push型)」から「マーケティング志向(Pull型)」へ転換するため、部門横断型の「PR会議」を新設。「PRは広告(宣伝)ではなく推薦」という考えのもと、顧客から選ばれるためのストーリー作りや価値伝達を重視する体制へと移行している。

写真 人物 大橋克之氏

「たびもっち」で挑む空港・世界市場への進出

大橋氏は、今後に向けた重要なステップとして、2027年4月に予定されている福岡空港への新業態出店を発表した。新ブランド「たびもっち~旅するもち吉~(仮称)」を立ち上げ、トラベルリテール(観光市場)やインバウンドのニーズに応える展開を開始していく。

2025年10月の大相撲ロンドン公演での公式プログラム掲載での反響も大きかったため、2026年6月のパリ公演に合わせた現地での販売開始なども検討している。他にも海外現地やインバウンド旅行者への顧客接点づくりを増やすことで「地元で親しまれるブランド」から、「地元が世界に誇れるブランド」への進化を目指していく。

写真 人物 大橋克之氏

大橋氏は、これらの取り組みを通じて、美味しいものを作るメーカーとしての強みを活かしながら、情緒的価値(ブランドへの愛着)を高め、100周年を迎える2029年には「米菓といえばもち吉」と世界中で第一想起されるブランドを目指すと語った。従来の成功体験にとらわれず、外部パートナーとの共創や大胆な市場開拓に挑む姿勢は、地方企業の新たな成長モデルを示唆している。

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