58分という短い上映時間でありながら、興行収入は44億円を越え、国内外で大きな話題を呼んだ劇場アニメ『ルックバック』。押山清高監督をはじめ、作品に携わったクリエイターたちがどのように原作の世界観を紡いでいったかに着目し、マンガ作品がアニメーション作品として昇華されていくまでの軌跡とこだわりを紐解いた展覧会「劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情」が、1月16日から麻布台ヒルズ ギャラリー(東京・港)で開催されている。
開催に先立ち1月15日に行われたイベントでは、押山監督による3Dドローイングや、経済学者・成田悠輔氏との特別トークが実施され、“AIが台頭する時代に人が手で描くこと”の意味が、創作現場の言葉で語られた。
何もない空間に「線」が立ち上がる——押山監督が3Dドローイングを披露
開幕記念イベントでは、押山監督がヘッドマウントディスプレイを装着し、会場内の空間に劇場アニメ『ルックバック』の中でも印象的なシーン「雨の中を疾走する藤野」のイラストをリアルタイムで描く3Dドローイングを実施した。完成した線はデジタルの空間に現れるが、そこに宿るのは監督自身の身体感覚と判断の積み重ねであり、まさに「描く」行為の現場を見せる内容となった。
押山監督は、描くことには楽しさだけでなく辛さもあり、休むこともある一方で「またすぐに描きたくなる」と語り、藤野に自分を重ねたとコメントした。劇場アニメ『ルックバック』が描く“描かずにはいられない衝動”を追体験させるライブパフォーマンスだ。
なお、展覧会場の最後のエリアでは、この3Dドローイングを“さらにバージョンアップさせた作品”も展示され、来場者は観覧することができる。
バスキュールとサイバーエージェントが技術協力している
成田悠輔氏と対談、「AI時代の“手で描く”」をめぐって議論
続くトークイベントには、対談ゲストとして経済学者・成田悠輔氏が登壇。展覧会ができるまでの経緯に加え、AIが台頭する時代に“手で描く”ということ、漫画とアニメの違いなどをテーマにトークが行われた。
押山監督は、AIとアニメ制作について「AIの進化速度が速く能力も上がっている」ことを踏まえつつ、少人数制作だからこそAIを“味方”にできれば、新しい表現の可能性があるとも語った。テクノロジーを否定するのではなく、力を認めたうえで、それでも人が線を引く意味を問い直す姿勢が展覧会全体の核になっている。
この問題意識は、押山監督が本展に寄せたメッセージとも関連する。押山監督は、AIが絵を含むあらゆるものを生成できる今、「なぜ人は、それでも描くことをやめないのか」という問いに“自分の線で答えようとした作品”だと述べている。AIという抗いようのない時代の変化に対して『ルックバック』はクリエイターの生存戦略であり、クリエイター賛歌であり、人間賛歌と位置づけた。



