広告が均質化する時代に「異常値」をどう生み出すか、福岡のクリエイターらが激論

「宣伝会議サミット/環境ビジネス・カンファレンス in Fukuoka」が2025年12月12日、福岡で開催され、同地を拠点に全国で活躍する4人のクリエイターによるセッション「広告が均質化しがちな時代に異常値をつくり出す 福岡のクリエイター文化」が開かれた。

九州博報堂の松尾昇氏、西鉄エージェンシーの近藤純氏、BBDO J WESTの森下浩子氏、そしてRAWALPINDIの北川譲氏が登壇し、AIやアルゴリズムによる最適化が進む現代において、予定調和を打ち破る「異常値」をいかに生み出すかを議論した。

デジタル化により「勝ちパターン」の踏襲や表現の画一化が進む中で、いかにして生活者の記憶に爪痕を残す特異点をつくり出すか。本レポートでは、福岡コピーライターズクラブ(FCC)という独自の土壌で磨かれた彼らのクリエイティブ哲学と、具体的な事例を通じたメソッドをレポートする。

「正解」のコモディティ化と埋没への危機感

冒頭では、AIで作成した「均質化」をテーマにしたCM映像を提示し、テクノロジーの進化がもたらす表現の画一化について問題提起した。これに対し、近藤氏は「アルゴリズムにより、つくるものだけでなく、接する情報も均質化している体感がある」と分析した。

続いて北川氏は、「最初の3秒で掴む」といった「勝ちパターン」が確立されているため、そのセオリーに沿った広告が作られやすいのではないかと語った。

また、森下氏は自身の審査員経験を振り返り、賞レースにおいてさえも見慣れた表現が並び、既視感のある作品は意識を通過してしまっていると指摘した。

なぜ均質化を避けるべきなのか。松尾氏は、各商品カテゴリーにおいてそれぞれ競合がひしめく中、平均的な広告では純粋想起のイスを奪えないと断言する。就職活動で皆と同じアピールをしても選ばれないのと同様、広告も「異常値」でなければ選択肢に残らない。

北川氏もまた、不意に流れる15秒間を「最高に楽しい時間」に変える気概がなければ、広告は見てもらえない。広告は本来、ものを売るための手段であるが、それだけでなく「世の中を楽しくする」という想いを背負ってつくらなければならないと強調した。
それを受けて森下氏は、生活の中にあふれる広告の多くが似通っており、つまらないと感じることがあると述べた。

論理を超越する「異常値」の実践知

セッション中盤では、登壇者たちが実際に手がけた「異常値」の実例とその制作背景が共有された。 松尾氏が手がけたダイショーの「焼肉一番」のCMでは、なかやまきんに君を起用し、35秒の尺のうち約25秒間ひたすら「パワー!」と叫び続けるという極端な構成を採用した。

人間は「どういうことなのだろう?」という疑問を残したままその対象を無視できないという仮説のもと、WEB上でスキップされない表現を目指した。結果的にこのCMは、SNSで数万リポスト以上の広がりをつくることにも成功した。

一方、近藤氏はマリンワールド海の中道の「かいじゅうアイランド」のリニューアル告知において、「ズンズン」というオノマトペのみで構成されたCMを展開した。施設のリニューアルや新しい魅力を言葉で説明したくなる誘惑を抑え、あえて情報を削ぎ落とすことで、「ズンズン」という言葉が持つ違和感を際立たせる「引き算」のアプローチである。

近藤氏は、説明的なコピーを入れると企画の持つ「乱暴な魅力」や興味を喚起する力が弱まると判断し、コピーライターとも議論を重ねた末、キャッチコピーを加えない選択をし、直感的な違和感を選んだ。

北川氏による「黒伊佐錦」のCMでは、俳優が「仕事なんかぶっ飛ばして、釣りがしたい」と歌う演出がとられた。これは、商品の本質を掘り下げた上で、あえて個人的に好きなものを投げ込んでみるアプローチを採用している。また、歌詞のみを渡してメロディを即興で作ってもらうという「ハプニング」の余地を残したことが「異常値」の創出に繋がったと語った。

また、森下氏は「宣伝会議コピーライター養成講座」のCMで、たった3文字変えただけのキャッチコピーで言葉のチカラを表現するというシンプルさを追求した。周囲が目立とうとして過剰な演出をする中で、あえて極限まで要素を削ぎ落とすことが、逆説的に「異常値」となり得ることを示した。

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