自分の口が勝手に動いて、考えていることをあらゆる言語で喋ってくれたら――?AIの力で実現したmajikitchenによるコミュニケーションツール「mouth2mouth」の制作背景を聞いた。
「暇つぶし」から生まれた身体拡張
クリエイティブユニットのmajikitchen(マジキッチン)が発表した「mouth2mouth(マウストゥマウス)」は、スマートフォンを口元にかざすことで、自身の口の動きをディスプレイ上のアバターに代替させるツールだ。事前に入力したテキストや音声に応じ、画面上の口がリアルタイムで稼働。他言語での流暢な会話や、全く別人の声色による発話を可能にする。
アーティストで“虚匠”を名乗る福澤貴之さん、AI愛好家で起業家の原庸一朗さん、ロボティクス研究者の興野悠太郎さんの3人で活動するmajikitchenは、商業的な成功や課題解決を第一義とするクライアントワークとは異なる、メンバーそれぞれが持ち寄った実験的なアイデアを各々の専門性を掛け合わせて高速で実装することを活動の目的としている。
「mouth2mouth」の着想は、福澤さんの個人的な「遊び」から生まれた。「誰もが高機能なスマートフォンを持っているのに、真っ当な使い方しかしないのはもったいない。暇つぶしに自分の目や口をカメラで撮影し、その場で自分の顔に重ねて遊んでいたのがきっかけです。単純にそのビジュアルが面白く、人目を引くだろうと感じました」(福澤さん)。当初は録画した映像を再生するだけのシンプルな仕組みだったが、原さんがここに生成AI技術を組み合わせることで、プロジェクトは一気に具体化する。「コミュニケーションツールであれば、目よりも口を動かす方が、対話の可能性が広がり発展性があるのではないか」という議論を経て、現在の「口」を代替する形式となった。
「桂馬」的アプローチ
彼らが開発において意識しているのは、社会課題に対する直線的なソリューションではなく、少しずれた視点からのアプローチだ。将棋の「桂馬」のように斜めに飛ぶ感覚だという。「最短距離でソリューションを提供するのではなく、『こういうアプローチもあるかもしれない』という変化球を投げたいと考えています。つくってみて初めて『世の中にない視点だった』と確認できるような、ある種の“誤配”のような面白さを大切にしています」(興野さん)。
