やっぱり15秒CMは最強? 「佐藤雅彦」講義から若手クリエイター3人が読み説く思考法と企画術 前編

「だんご3兄弟」や「ピタゴラスイッチ」といった国民的なコンテンツから、「スコーン」「ポリンキー」「サントリーモルツ」「フジテレビ ルール」「ピコー」「カローラⅡ」など数々の記憶に残るCMまで、佐藤雅彦さんが作るクリエイティブは幅広い世代の記憶に刻まれています。2025年に横浜美術館で開催された展覧会「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」の会期中には、小さな子どもから大人までさまざまな世代の人たち28万人が訪れました。もちろん広告界においても、そのクリエイティブの発想、これまでになかった切り口や表現はいまでも語り継がれています。

そんな佐藤さんが、2024年にnoteでスタートしたのが『佐藤雅彦の「そういうことか新聞」』。定期的にコンテンツを発信すると同時に、自分が見つけたこれまでの作り方を解き明かすオンライン講義を開始したのです。大学以外でほとんど話されていなかったCMや番組の映像や企画の作り方が、この講義では現在進行形で公開されています。

今回、CMプランナーの花田礼さん(電通)、ディレクターの伊勢田世山さん、そしてCMプランナー/ディレクターの中田みのりさん(博報堂)の3人に、このオンライン講義を見ていただきました。いずれも30代、現場で活躍しているクリエイターたちで、幼い頃に「だんご3兄弟」をはじめ、佐藤さんが手がけたEテレの番組を見て育った世代。そんな彼らが佐藤雅彦さんのCMに関する講義からどんなことを学んだのでしょうか。


本企画では2回にわたり、3人のトークをお届けします。

左から中田みのりさん、伊勢田世山さん、花田礼さん。

ポリンキーも「だんご3兄弟」も、電通の「あの人」が作っていた!

━━皆さんが最初に佐藤雅彦さんを知ったきっかけを教えてください。

花田:子どもの頃は「だんご3兄弟」「ピタゴラスイッチ」「アルゴリズム体操」を誰が作っているかなんて全く意識せずに見ていました。ポリンキーやスコーンのCMもそうです。それらが全部、電通で佐藤さんが手がけていたと知ったのは、僕が電通に入社してからでした。
佐藤さんと同期の佐々木宏さんと仕事をした時に、「こういう感じで考えてほしい」と、佐藤さんの過去の仕事を参考として提示することがあって。それ以降、自分でも意識して佐藤さんの仕事を見るようになりました。

花田礼さん

伊勢田:僕もドンタコスやポリンキーのあの独特のリズムは、幼少期から耳に残っていました。「だんご3兄弟」が社会現象になり「NHK教育」が「Eテレ」になって番組の雰囲気も変わっていく中で、「こういうものは誰が作っているんだろう?」と興味が湧いてきました。
そしてAOI Pro.で制作部から企画演出部に異動する際、上司が『佐藤雅彦全仕事』をプレゼントしてくれて。それを読んだ瞬間に、見てきたものが一本につながった。「あれもこれも佐藤さんだったのか!」と衝撃を受けました。

花田:後から全部つながる感覚、わかります。

中田:90年代初頭生まれの世代は、小学校の帰り道なんか永遠に「だんご3兄弟」歌ってましたよね。アイナ・ジ・エンドさんが日比谷音楽祭で「だんご3兄弟」を歌っていましたが、同世代の人はもちろん、育った場所や世代が違っても日本中誰でも知っている曲ですよね。

私は当時北海道に住んでいたのですが、大きなストーブの前で丸くなりながら、姉妹で一緒に「だんご3兄弟」を見て、歌っていた記憶がいまも残っています。

僕らでもできる?佐藤雅彦流の「要素還元」

━━自分が広告の仕事を始めてから、佐藤さんの仕事を見ると、また見方が変わってくるのではないかと思います。オンライン講義を聴いて、どうでしたか?

noteで展開している「佐藤雅彦オンライン講義」より。月に1回、ライブ配信される。

花田:佐藤さんは「面白いものって何だろう?」と、常にピュアに追求しているんだと感じました。同僚とのちょっとした会話からこう思ったとか、観察する対象が日常に溢れている。普通だったら見逃しそうなところから要素を還元して、仕事や作品に生かしている。これは天性のものなのか、後天的なものなのかは知りたいです。

そして何より、ご自分が作ったものを本当に楽しそうに話す姿が印象的でした。少年が純粋な気持ちでワクワクしながら話しているような感じで、全く嫌味がない。「こんな楽しい理論を発見して、それを元に作ったらこんなものができた」と語る姿を見て、自分もそういう大人でいたいなと思いました。

中田:この業界に珍しくピュアな目の方ですよね。

伊勢田:講義を聴いて、僕が気になったのは、「要素還元」。佐藤さんがひとつの気に入った映像の中から要素を抽出する。それが「あ、そこなんだ」というもの、おそらく他の人とは全然違うところを抽出しているんです。要素の抽出の仕方もさることながら、抽出後に色々と組み合わせていくのではなく、その要素だけでCMを構築していく。これは勇気がないとなかなかできないことです。

伊勢田世山さん

特に驚いたのが、湖池屋スコーンの、キューブだけが動いてるバージョンのCM「キューブスコーン」篇(♪スコーンスコーン 湖池屋スコーンに合わせて、盤面をキューブが動いていく)です。「あれは本当に腰が抜けました」とご自分でもおっしゃっていましたが、これだけでCMができてしまうことに本当に驚きました。

湖池屋/スコーン「キューブダンス」篇

花田:研究や要素還元と言うと、大量のインプットをして、そこから共通項を抽出するイメージがありますが、実はひとつの対象からでもできて、佐藤さんはそこから新しい価値を引き出している。さらには自分が作ったものも研究対象になる。佐藤さんにかかると、なんでも研究対象になってしまうんですよね。

自分はもともとインプット至上主義で、大量にインプットするものの一つひとつへの洞察は浅めにやっていたのですが、佐藤さんはひとつのものから得る量と質が違う。あれは現役のときからやっていたんでしょうかね?

伊勢田:そう、だから「本当はめっちゃいろんなものを見ていたんじゃないですか?」と疑いたくなります(笑)。

中でも、オードリー・ヘップバーンの映画『昼下がりの情事』を見て、NEC/文豪ミニ(野村宏伸さんがロッカーに隠れて生徒たちの会話を聞き、文豪ミニを買いにいくというストーリー)の、あの企画につながったことに驚きました。普通なら映画を見て「ストーリーが面白かった」で終わるところですが、「映画の中で展開されるあまりに都合のよいこと」に注目し、それをできるのがタレントという存在であることに気づいた。タレントは何になってもいい、どんな職業になっても誰からもクレームが来ないということを、たったひとつの映画を見ただけで気づいてしまった。その着目がすごいなと思います。

NEC/文豪ミニ「宿題とワープロ」篇

中田:でも、ちょっとホッとしませんでした?「佐藤雅彦」というブランドはもう完全無欠のイメージでしたが、天才魔法使いのようにぽんぽん生み出す訳ではなく、いろいろなものを蒐集して、長時間考え抜いて自ら検証して企画を作っているんだ、という。リファレンスというより、やはり蒐集。それを知って、ちょっと救われた感じがします。

花田:確かにちょっとホッとしました。それに「超映画が好き」というマニアックなタイプでもない。この業界には映画通も多いですが、僕も映画をあまり見ないので、講義を拝見して「あ、佐藤さんも普通の人だったんだ」と。

伊勢田:音楽も聴かないと言っていましたね。

花田:あくまでもベースは普通の生活者。そこから要素還元をしている。

伊勢田:いわゆる映画の名作よりも「リスのスパイ大作戦」が気になり、あ、そっちなんだ(笑)!あの映像を日本一見ている人であり、あの映像に本気で向き合って音とのリンクに気づいたわけですから。

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