命のタイマー 末期がんに向き合い、公立中に次々と変化をもたらす校長が教えてくれること。

宣伝会議「編集・ライター養成講座」第50期の卒業制作で優秀賞を受賞した佐川史彦さんの作品を紹介します。

命の残り時間を刻む時計が動き出したら、あなたはどのように生きるだろうか。朝焼けの美しさに目を奪われ、家族との何気ない会話を噛み締め、過ぎゆく一瞬一瞬に意味を見出すだろうか。それとも、進みゆく時間を原動力に、新たな夢へと踏み出すだろうか。命のタイマーは静かに時を刻み、おぼろげだった生きる意味の輪郭を浮かび上がらせる。

写真 学校

学習院大学に隣接し、都心にも関わらず緑に恵まれた豊島区立千登世橋中学校

東京都豊島区目白一丁目。学習院大学の緑豊かなキャンパスに隣接する区立千登世橋中学校の校長室。そこには、愛用のコーヒーメーカーが置かれ、校長の小林豊茂(64)が淹れる香り高いコーヒーが漂う。保護者や来客に自らコーヒーを振る舞うこの人物は、ただの校長ではない。肺がんステージⅣの末期宣告を受けながらも、公立中学の在り方を次々と変えてきた、異端の公務員校長だ。

写真 人物 小林豊茂さん

小林豊茂(こばやし・とよしげ)
1961年、東京都豊島区生まれ。大学卒業後、東京都の中学校教諭として勤務し、葛飾区および東久留米市の教育委員会で教育行政に従事。2008年4月、豊島区立千川中学校校長に着任、2014年4月から豊島区立明豊中学校校長を務める。2016年夏、ステージ Ⅳの肺腺がんが見つかるが、闘病を続けながら、現在も豊島区立千登世橋中学校校長として生徒たちの成長を支えている。

末期がん宣告

小林校長の人生は、2016年の夏に一変する。健康診断で肺がんステージⅣと診断され、医師から末期がん宣告を受けた。健康診断は毎年受けており、体調も悪くなかった。

「まさに青天の霹靂。これからどうやって生きていけばいいのかと思いましたよ」

しかし、すぐに「これで治すことができて生徒の前に立てたら、かっこいいな」という感情が湧いてきた。その持ち前のポジティブ思考で放射線治療と抗がん剤治療を耐え抜き、校長職に復帰。2016年12月1日、93日ぶりに学校に戻った。全校集会では被っていたニット帽を脱ぎ、髪が抜け落ちた頭を見せたが、生徒たちは拍手で迎えてくれた。「戻ってこれた」という実感が込み上げてきたという。

復帰はしたものの、がんが無くなったわけではなく、治療で小さくなったがん細胞を大きくならないようにコントロールしている状態。がんとの共生を余儀なくされたことで、学校運営の意識が明確に変わった。「先延ばしにしたら、できないかもしれない」と考えるようになったためだ。「がんじゃなくても百歳まで生きる自信はない。命のタイマーは、誰もが持っている。それを自覚するかどうか」。時間を無駄にせず、今できる最大限の挑戦をする意識が強くなったという。

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