「メロディーが言葉を呼んでいる」——“刹那”を閉じ込める作詞の魅力

宣伝会議「編集・ライター養成講座」第50期の卒業制作で優秀賞を受賞した松澤春花さんの作品を紹介します。

“Lied to you
幸せを願うだけのいい人にはなれなかったよ”

「愛してる」なんて直接的な言葉は使わない。たった2行で2人の関係性がわかる。それが作詞の魅力である。

この曲は、偶然の出会いが生んだ。

作詞した鉄羽カナ(てつは・かな)さんは、もともと作詞を本業にしていたわけではない。とにかく歌うことが大好きで、音楽活動を続けていた。

彼女がよく行く居酒屋で、たまたま話がはずんだ相手が音楽関係者だった。音楽に関わっていることを打ち明けると、「せっかくだし、歌詞やってみない?」と声をかけてもらった。

『Lied to you』は、JO1の8thシングル『HITCHHIKER』に収録されている切ない片思いの曲だ。ただの友だちだと思われている相手に、ひそかに思いを寄せる様子を描く。歌詞にある、午前0時に恋愛相談を受けるシーンを想像して、胸がキュッと締め付けられる。

筆者にとって今まで音楽とは、メロディーが好きかどうかだった。歌詞が好きだから曲が好き、という感覚に初めて気がついたのは、この曲だった。

4人で始めたバンドからソロ活動へ

鉄羽さんが作詞を始めたのは、高校1年生のころ。地元の和歌山県で、友人3人とHEAD SPEAKERというバンドを結成した。

「歌う人が書いたほうがいいんじゃないって言われて、全曲自分で。右も左もわからないまま、がむしゃらに書き続けていました」

そのときから全国ツアーをしていた。お客さんが1人や2人しかいないライブハウスも経験したし、アンプの上や車で寝泊まりもした。この時間が永遠に続くと思っていた。

2016年に、HEAD SPEAKERは解散。その後、2年ほどソロで活動したが、コロナでことごとくライブが中止になった。

「解散ライブは挫折でもあり成功でもあります。バンドが終わっちゃって、そこから1人でやるのは大変やったけど、あんなに惜しまれた解散ができたのは成功だったと思う」

解散直前に地元和歌山で開催したHEAD SPEAKERのライブ。「初ライブからしたら考えられない景色でした」

歌うこととライブをすることが大好きだった。生きていくのに必死で、バンド時代は、バイトかライブしかしてこなかった。だから、1人になったとき、初めてちゃんと作詞に向き合った。

「メンバーがいなくなっちゃったから、やるしかなかった」

どん底だったが、偶然の出会いに救われた。

飲み友として出会った音楽プロデューサーの鈴木日出男(すずき・ひでお)さんが、作詞について一から指導してくれることになったのだ。

「『バンドをやめるんです。何もできないんです。助けてください』って言ったら教えてくれるようになって(笑)」

人の懐に入り込む、彼女の親しみやすい人柄だろう。偶然をチャンスに変えるのは、だれにでもできることではない。

笑顔を絶やさず取材に応じてくれた鉄羽カナさん。終始こちらに寄り添って話してくれた

とにかく作品を出したことが、成長につながった。1人でやっていると、もっとよくなるのではないかと内に秘めてしまう。だれかが関わることで決められた期限のなかで、そのときの精一杯を出すことを心がけた。

“たとえ1行でもワンワードでもいい。いい歌詞には『叫び』がある”

鈴木さんが鉄羽さんに伝えた教えのひとつだ。

「鉄羽の歌詞に、ドキッとしたり、グッときたり、ウルっときたり……。うまく言葉で言えない、心が動いちゃう詞に出会ったら、鉄羽が仕組んだ『叫び』なのかもしれません」

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