近年、人口減少という課題に直面する地方自治体では、「選ばれるまち」になるため、地域の魅力を創出し、伝えるシティプロモーションに力を入れている。その一方で、シティプロモーションによる成果の可視化や因果関係を説明することは困難を極めている。
シティプロモーションアワードは、データやロジックを活用し、説明できるシティプロモーションを実践した地方自治体等を表彰している。成果の可視化や因果関係の説明が容易でないシティプロモーションで、どのようにデータやロジックの活用を実践したのだろうか。卓越したシティプロモーションの実践について、本イベントの実行委員長を務める河井孝仁氏に話を聞いた。
※本記事は情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部の有志と『宣伝会議』編集部が連携して実施する「宣伝会議学生記者」企画によって制作されたものです。企画・取材・執筆をすべて教育部の学生が自ら行っています。
※本記事の取材・執筆は教育部修了生・直島朋弘が、また取材には平松優太(修了生)が参加しました。
━━シティプロモーションはどう定義すればよいでしょうか?従来の自治体の広報活動とどのような違いがあるのでしょうか。
シティブローモーションとは、地域の魅力の発見・発掘が起点となります。魅力を発見・発掘した上で、それを地域の内外に訴求していく。加えて訴求するだけではなく、訴求の結果として地域の担い手や物語を含めた地域ならではの経営資源を獲得し、さらにはそれらの資源をうまく活用し、地域に関わる人々が持続的に幸せになっていくところまでがシティプロモーションであるというのが私の考えです。
“プロモーション” はマーケティングの4Pのひとつなので、「シティ・プロモーション」であれば単なる宣伝広告という定義でも良いとは思いますが、「・」のないシティプロモーションという言葉を使うとすれば、地域の魅力を積極的に提起して、資源を獲得する。資源を獲得することによって、地域に関わる人々が幸せになるというところまでをスコープにすべきだと考えています。
一方で、従来からある自治体広報については大きく2つの役割があります。役割のひとつは、自治体や地域企業、NPOの取り組みを可視化することです。地域に関わる人々が、地域の状況を知ることができるようにすることが必要となります。
2つ目は行動変容です。行動変容というのは、意識を変え、行動を促すことですが、自治体広報としての役割は行政サービスを周知することで的確な活用・行動を促すことや地域をめぐる問題・課題に対し参画を促すこと。さらに地域のもつ資源や施策を地域内外に広く知らせ、市民のプライド醸成や地域外の方からの地域への関心を促すことです。
こう捉えると自治体広報もシティプロモーションの一環であるという言い方もできるかもしれません。ただし、シティプロモーションは、最終的に単なる行動変容にとどまらず、それによって資源獲得から地域の人々の持続的な幸せまでを目指していくという意味では、視野が広いということだと思います。
シティプロモーションアワード実行委員長を務める河井孝仁氏
合同会社公共コミュニケーション研究所 代表CEO・東海大学客員教授
━━先ほどマーケティングの4Pという話がありましたが、地方自治体が行うプロモーションの特徴はどのようなところでしょうか。
自治体が行うプロモーションは、民間企業とは異なり、税金を原資にしているので、あらゆる方に対する認知獲得が必須となります。例えば60代男性向けに特化したサービスに関しても、そのサービスがあることを20代女性にも知ってもらえる状況を作ることが必要になります。それは20代女性も税金を支払っているからです。もちろん、20代女性に行動変容させる必要は必ずしもありません。それでも少なくとも知っているっていう状況をつくり、調べればわかるという状況をつくることが必要です。
民間企業にとっては、見込みのない対象に情報提供することは、明らかに資源の浪費なので一般的には行いません。ところが自治体の場合は、繰り返しますけれども、直接の対象者ではない人々に対しても何をしているかということはできる限り広く伝わるっていう状況をしなければいけません。自治体はターゲティングが不十分であるという意見もありますが、そういう意味では、最初からターゲティングすることができないという側面があります。認知獲得として広く知ってもらうことがあった上で、セグメンテーションやターゲティングという発想になると思っています。さらにSTPのポジショニングについては、民間企業は比較的容易にポジションを変えることができます。
ところが、地域というのは、ポジションを変えることは極めて困難です。そのため、STPは民間企業のマーケティングプロモーションには有効かもしれませんが、自治体では、Pは簡単な話ではありません。民間企業が行うプロモーションに比べて、極めて難度の高いことをしているということは、しっかり理解してもらいたいと思います。自治体は民間から学ぶべきだという意見があります。当然ながら学べる部分は多数ありますが、民間と同じことをやっても自治体広報というのは決して評価されないし、間違った方向性に向かうリスクは高いと考えています。その間違った方向というのは、ターゲティングの観点でいうと、広く伝える必要があるのに20代女性向けの政策だから60代男性にこのことを知らせる必要はないと判断してしまうようなことです。これは基本的にはあってはならない話です。
ポジショニングの部分も注意が必要です。よくマーケットインとプロダクトアウトという話があります。民間企業のプロモーションはマーケットインの発想がとても大事ですが、自治体は簡単にマーケットインの発想は取り入れられません。例えば、地方の地域が渋谷にはなれません。そういう意味では、それを求めているマーケットがあったとしても実現は非常に困難です。まずは地域があり、その地域に対して共感できる人を見つけていく。そういう意味では、プロダクトアウトの発想がどうしても必要になるという意味でも、民間企業のプロモーションと自治体の行うシティプロモーションの違いは大きいと思っています。もちろん徐々に変えていくことはできますし、見せ方も変えることはできます。ただし、本質的な部分はそんな簡単に変わりません。

