私たちは「意味」を消費するようになった
2020年に始まったコロナパンデミックは、社会構造にも大きな変化をもたらしました。リモートワークの普及によって通勤時間は減り、対面が当たり前だったミーティングや営業もオンライン化しました。この人流の変化は、街のあり方そのものを変えています。
銀座や渋谷の一等地にある商業施設では空きテナントが目立ち、家電量販店はかつてのにぎわいを失い、銀座の夜の華やかさも以前に比べて減ったように感じられます。さらにAIは、私たちの思考や嗜好を学習し、対話の中で寄り添う存在へと進化しています。AIが薦める商品を購入し、AIに相談しながら比較検討し、やがてAIを相手に値引き交渉をする時代が来るかもしれません。そうなれば、旧来型の広告や一方的なメッセージは、ますます消費者に届かなくなっていくでしょう。
だからこそ、問われているのは「意味」です。
なぜ、その場所に行くのか。
なぜ、それを購入するのか。
なぜ、それを食べるのか。
あらゆる商品のクオリティが底上げされた時代において、人々は機能ではなく「意味」を消費するようになっています。
ディレクションとは「切り捨てること」
体験設計において最も重要なのは、コンセプトが説明なしでも体験者に伝わるかどうかです。
どれだけ映像が美しくても、どれだけ豪華な出演者がいても、「結局この作品は何を伝えたいのか分からない」と感じた映画を、面白いと思ったことはないのではないでしょうか。
体験者を迷子にさせないこと。それがディレクションの本質です。
そのために必要なのは、足し算ではなく引き算です。体験を豊かにしようとして要素を足していくと、むしろコンセプトはぼやけていきます。必要なのは削り落とすこと。そして、そのためには勇気が必要です。
もう1つ重要なのは、仮説を立てる力です。どの要素を残し、どの要素を削るのか。その判断はすべて仮説の上に成り立っています。AI時代に求められるのは、まさにこの「仮説を立て、体験を設計する力」なのです。
日本のクリエイティブが勝てる分野
残念ながら、日本はこの20年でデジタル分野において大きく後退しました。しかし、海外で仕事をする中で強く感じることがあります。
それは、日本の文化の厚みです。衣食住の文化、そして創造性を発揮する多様な分野において、日本はアジアの中でも明確な優位性を持っています。
実際、シンガポール政府とのプロジェクトや平昌オリンピック、ドバイ万博などで体験コンテンツを提供してきた中で、日本文化の魅力が世界で高く評価されていることを何度も実感しました。さらに円安やパンデミックの影響もあり、日本国内を見直す動きが強まっています。インバウンド観光客も増え、これまでマイナーだった地域にも多くの外国人が訪れるようになりました。
しかし、日本の地方には1つの課題があります。夜が早いことです。夜8時を過ぎると、街が静まり返る。これは日本ではよく見られる光景です。一方、海外ではナイトタイムエコノミーが発展しており、夜遅くまで街が賑わっています。
私たちは、日本の文化遺産を夜に活用する「夜会」というプロジェクトを行い、旧芝離宮恩賜庭園、名古屋城、二条城、長崎のグラバー邸などで夜の体験を生み出してきました。
日本には、まだ世界に届けられていない文化資源が数多くあります。それらを体験として設計し、世界に届けていくこと。そこに、日本のクリエイティブの未来があるのではないかと私は考えています。
AI時代に求められるクリエイターの力
AIはこれからも進化し続けるでしょう。そして、クリエイティブの制作工程の多くは、AIによって自動化されていくはずです。しかし、その時代においても、決して消えない仕事があります。
それは、「何を作るべきか」を決める仕事です。
社会にどんな意味を生み出すのか。
どんな体験を届けるのか。
そして、人の心をどこへ導くのか。
それを設計すること。私はそれを「エクスペリエンスディレクション」と呼んでいます。
AIが作る時代だからこそ、人間には意味を設計する力が求められる。これからのクリエイターに必要なのは、ツールを使いこなす能力ではなく、未来を構想する意志なのだと思います。
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