マーケターは「指揮者」へ、Brazeが見据えるAIエージェント時代の顧客体験設計とは

AIエージェントの進化により、パーソナライズや即時性は「差別化」ではなく「前提」になりつつある。実行や最適化をAIに委ねる時代、顧客起点マーケティングはどう変わり、マーケターは何を設計すべきか。2月17日、18日に都内で開かれた「KAIGI GROUPフォーラム」(宣伝会議主催)では、顧客エンゲージメントプラットフォームを提供するBraze(ブレイズ)の吉永敦氏が登壇。同社が提唱する思想や技術潮流を踏まえ、顧客体験づくりを「人が担う領域」と「AIに委ねる領域」に分けて捉える考え方を解説した。

人力マーケティングは構造的限界にある

近年、企業のオンラインコミュニケーション投資が増える一方、AIの普及で求められるUXの水準も上がっている。Brazeのグローバル調査では、「顧客は満足している」と考える企業が82%にのぼる一方、実際に満足している消費者は41%にとどまった。

Braze カスタマーサクセス部 部長 吉永敦 氏

Braze カスタマーサクセス部 部長 吉永敦 氏

Brazeが日本国内で実施したLINEメッセージ調査でも、「購買履歴から最適な商品を提案してくれる」(69.4%)など、内容面は一定評価された。一方で、「いい感じのタイミングで送ってくれる」と答えた人は19.8%にとどまり、配信タイミングが課題として浮かび上がった。

また、消費者の94.1%が「自分をしっかり理解してくれるブランドを応援したい」と回答しており、パーソナライズ体験への期待の高さがうかがえる。

配信タイミングやパーソナライズへの不満が多いと判明した調査結果

配信タイミングやパーソナライズへの不満が多いと判明した調査結果

こうした状況を受け、吉永氏は「顧客体験は、もはや人間だけでは設計できない」と指摘する。パーソナライズが前提となり、判断のリアルタイム化も求められる中で、人手中心の運用は追いつかなくなっているという。

「文脈を理解したAIチャットが当たり前になると、それ以外の体験を消費者は許容してくれない。特にZ世代を中心に『不便さの非許容』が高まっており、少しでも不快な体験があればすぐに離脱してしまう」と吉永氏は説明した。

機械学習の4分類とAIディシジョニング

吉永氏は、マーケティングにおける機械学習を4つに分類する。従来の「予測モデル」(教師あり学習)、広告で用いられる「パターン識別」、コピーライトなどを生成する「生成AI」。そして第4の類型が、強化学習を用いた「意思決定」=AIディシジョニングだ。AIが自己学習しながら試行錯誤を重ねるアプローチで、「囲碁で当時、人間がAIにも負けたと話題になったアルファ碁にも用いられている技術」と位置づける。

従来の予測アプローチ(ネクストベストアクション)では、解約リスクなどをスコアリングし、セグメントごとに人がテストを重ねて最適解を見つけ、最後に自動化する流れをとることが多い。しかし、市場変化でモデルが古くなりやすく維持コストがかさむ点や、スコアリングにとどまって実行まで担わないためテスト作業が終わらない点が課題だという。吉永氏は「細かくセグメントすればするほど、人間の手には負えなくなる」と指摘した。

AIディシジョニングでは、人の役割が異なり、マーケターが設定するのは、収益やコンバージョンなどの「目標(ビジネスKPI)」と、オファー、クリエイティブ、チャネルなどの選択肢をまとめた「アクションバンク」だ。AIエージェントはその範囲内でテストと学習を繰り返し、個々の顧客に最適なコミュニケーションを導き出す。

例えば、クーポン5種、クリエイティブ5種、タイミング2種、曜日7種、チャネル4種、頻度4種だけでも組み合わせは膨大になる。こうした探索をAIに任せることが、次世代マーケティングの鍵になるとした。

大手クレジットカード会社の活用事例

大手クレジットカード会社の活用事例

成果例として、米国の大手クレジットカード会社の友人紹介プログラムを紹介。時間帯、曜日、メールのタイトルやクリエイティブなどをアクションバンクとして設定し、インセンティブは変更しないまま運用したところ、紹介コンバージョン率は92%向上し、LTV換算で25億円相当の効果が出たという。

加えて、AIは「カード利用状況によって最適な曜日が異なる」ことも見いだした。低額利用顧客には木曜日、高額利用顧客には土曜日が効果的といった具合だ。吉永氏は「人間では見つけにくいパターンをAIが自律的に発見した」と強調した。

マーケターはAIエージェントを動かす「指揮者」へ

Brazeが提案する「コンポーザブルインテリジェンス」

Brazeが提案する「コンポーザブルインテリジェンス」

吉永氏は、実行や最適化はAIに任せつつ、顧客体験の価値を設計するのは人の役割だと説明。マーケターは個別施策の実行者から、複数のAIエージェントを動かす「指揮者」や「プロデューサー」へと役割が変わっていくという。

この考え方を形にしたのが「コンポーザブルインテリジェンス」だ。自然言語で意図を伝え、専門性の異なるAIを組み合わせ、成果(アウトカム)から逆算して顧客体験を設計する発想を中核に据える。

Brazeのプラットフォームでは、自然言語で「新規ユーザー向けのオンボーディングジャーニーを構築して」と指示するだけで、カスタマージャーニーのフローが自動生成される。マーケターはツール操作よりも、「どんな体験をつくるか」に集中しやすくなるという。

再注文ジャーニーにカスタムエージェントを組み込む例も示した。「ワンサイズ上が欲しい」といった曖昧な問い合わせに対し、エージェントが意図を解釈し、過去の注文履歴から適切な商品を提案する。この仕組みにより、ある企業では再注文のコンバージョン率が8.8%向上したという。

成果指標を再定義、人間がフォーカスすべきこと

先進例として、ファイターズ スポーツ&エンターテイメント社の取り組みを紹介した。同社は「応援している球団」をアンケートで尋ね、他球団のファンにはそのチームとの交流戦チケットを案内するなど、文脈に寄り添ったコミュニケーションを行っている。吉永氏は、こうした発想は「顧客を喜ばせたい」という人の意図から生まれるもので、AIにはできないと述べた。

球場の大型ビジョンとLINEミニアプリを連動させた参加型企画も、ファンを楽しませたいという思いから生まれた、人間中心の仕組みづくりの例だとした。

ファイターズが重視する指標は売上だけではない。「顧客の滞在時間」と「不満足な時間の削減」も重要だという。例えば、アプリでバスの混雑状況をリアルタイムに表示し、待ち時間のストレスを軽減するなどの施策を積み上げていた結果、成果指標の一つとして捉えている平均滞在時間が年間で約20%も向上している。

試合観戦の熱が冷めないうちに次回来場を促すなど、感情の機微を捉えるアプローチも実践している。吉永氏は「顧客と向き合い、どのタイミングで何をすれば喜んでもらえるかを考えることは、人間に残された重要な仕事だ」と話した。

最後に吉永氏は、AIエージェント時代のマーケターの役割について、「価値の源泉はAIそのものではなく、知能の組み合わせを設計できる人間にシフトする」と結論づけた。

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お問い合わせ

Braze株式会社

https://www.braze.com/ja


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