本コラムは2026年4月1日発売予定の『THE CUSTOMER CENTRIC COMPANY 顧客基点経営 10の実践』の編著者、岩井琢磨氏をはじめ多くの企業の「顧客基点経営への変革」を支援してきたコンサルティング・ファーム顧客時間の主要メンバー5人による特別企画です。第2回は顧客時間 サステナビリティマーケター 田原美穂氏が担当します。
プロフィール
社会価値を目的にしてこそ実現する、顧客の生活を豊かにする真価
生活者は、もはや環境負荷や資源の大量消費に無自覚ではいられない。
日々のニュースやSNSでは、気候変動、海洋プラスチック、資源高騰などの社会・環境課題が絶えず取り上げられている。「本当は社会や環境に悪い買い物はしたくない」と感じる人は多いが、実際の購買行動は大きく変わっていない。この「心理と行動のギャップ」は長年指摘されており、日本でも、環境配慮型商品の購入意向がある人は6割を超える一方、実際の購入者は約3割にとどまる。
しかし、この乖離は生活者がサステナビリティを軽視しているからではない。
むしろ「社会・環境に良い選択をしたい」という気持ちと、「価格・利便性・デザインなどの合理性」が同時に存在し、購入や廃棄の場面で「罪悪感」を抱く人も増えている。それでも行動が変わらないのは、割高感、入手のしづらさ、デザイン性の不足、リセールやリファービッシュ品※などへの不信など、意思決定に必要な要素がまだ十分にそろっていないためだ。
だからこそ、企業が社会価値を事業目的の中心に据えたうえで、顧客が求める経済性・利便性・心理的満足を満たすビジネスモデルを設計すれば、「道徳的充足感」も重なり、行動は自然と変わっていく。
※初期不良などを理由に返品された製品を、修理・検査して再出荷したもの。
計画的陳腐化はまさに企業都合
電子メーカーや、自動車業界が長年行ってきた「計画的陳腐化(Planned Obsolescence)」は、今でこそ広く知られているが、顧客が長く欺かれてきた側面がある。製品寿命を意図的に短く設計し、買い替えを促すこの手法は、物理的な寿命だけでなく、機能やデザインを少しずつ更新して心理的に「古さ」を感じさせるものだ。これは収益を優先した企業都合の戦略であり、顧客価値や環境負荷といった社会価値は置き去りにされてきた。「昔の製品の方が長持ちしてよかったね」という親世代の小言を子どものころからよく聞いてきたが、その背景には企業の思惑があったのだ。
さらに、多くの電子機器は、「一度販売して終わり、または顧客が一定期間しか使用しない前提」で設計されているため、商品の薄型化や接着構造により、修理する事が難しくなり、部品の供給も短期化されている。これでは、新商品が出続け、廃棄量は拡大する一方である。実際に、世界のe-waste(電子廃棄物)においては、2022年に過去最大の6,200万トン、2030年には8,200万トンへ増大(の見通し)、正式回収・リサイクルは22.3%に留まっている。
このような企業活動では、真の顧客価値を損ねるだけでなく、資源搾取と温室効果ガス排出を押し上げ、社会価値をも毀損する。企業は、「長く使える × 直せる × 手放しやすい」を前提に、製品・サービス・価格・データのつながりを再設計する必要がある。
修理可能なスマートウォッチGoogle Pixel Watch 4
(出典:Insights from our journey to create a delightfully repairable smartwatch)
