「AIの普及に必須の視点とは」博報堂DYグループのAI責任者が語る“共創エージェント”戦略

博報堂DYホールディングスの執行役員 Chief AI Officerである森正弥氏が、2月17日、18日に都内で開かれた「KAIGI GROUP フォーラム」(宣伝会議主催)に登壇した。同氏はAIエージェント普及の鍵が、単なる自動化や効率化の追求ではなく、生活者の「感情」に寄り添う「共創」にあると提言。生活者調査から見えてきたインサイトと、企業が取るべき新たな戦略について、具体的な事例を交えながら解説した。

「AIをまとった生活者」の登場—タイパよりも大切なもの

2026年はAIエージェントの本格的な普及が進むと予測されるが、森氏は「このままではAIエージェントは普及しない」と警鐘を鳴らす。その理由は、現在のAIエージェントに関する議論には「生活者の視点が決定的に欠けている」からだと指摘した。

博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer/Human-Centered AI Institute代表 森正弥 氏

博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer/Human-Centered AI Institute代表 森正弥 氏

博報堂DYグループが実施している「AIと暮らす未来の生活調査」によれば、生活者はAIを従来のデジタルテクノロジーとはまったく異なるものとして捉えている。特に10代は、どの世代よりもAIを使いこなしている一方で、どの世代よりもAIを「怖い」と感じているという。森氏は、この「便利だ、でも同時に怖い」という相反する概念の同居こそが重要だと指摘する。「AIはテクノロジーではもはやない。どういう存在として付き合っていくべきか」を生活者は模索しており、AIは主従関係ではなく「コンパニオン・スピーシーズ(共に生きる種)」になりつつある。

調査データは、生活者がAIを単なる効率化ツールではなく、感情的なパートナーとして見始めていることを示している。20%は「AIが寄り添ってくれる」と認識し、28%は「人間よりもAIを信頼して相談している」。さらに10代の28%は「AIに恋人になってほしい」と回答している。森氏は「AIは『便利さ』を超えてパートナーになるべき」だと強調する。

この視点は、「AIがやるべきこと」と「人間がやるべきこと」を尋ねた調査結果にも表れている。生活者が最も「人間がやるべきこと」として挙げ、AIに任せたくないと考えたタスクは「買い物」であった。これは、AIエージェントによる購買の自動化を目指す提供者側の思惑とは真逆の結果である。「生活者にとって買い物は『自分の世界(テリトリー)』。経済合理性で買っているのではない」と森氏は分析し、タイパ(タイムパフォーマンス)の追求だけでは生活者の心は掴めないと述べた。

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生活者は「感情を大切にしたい」と考えており、博報堂生活総合研究所の調査が示す「育てるデジタル、信じるアナログ」という行動様式で現れている。デジタルを使い情報収集し検討する。調べて確信が持てたらアナログに投入していく。デジタルとアナログは使い分けではなくて1つのカスタマージャーニーと位置付けている。

森氏の見立てでは、従来の購買ファネル「AIDMA」の「Attention(注意)」の前段階に、「AIとの相談・遊び」という膨大なプロセスが生まれつつある。この感情的なつながりの先に、初めて購買行動が起こる。これが「AIをまとった生活者」の新たな姿である。

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企業が目指すべき「共創エージェント」というあり方

生活者の変化を踏まえ、企業が開発すべきは自動化・効率化を目的としたエージェントではなく、「共創エージェント」であると森氏は提言する。共創エージェントとは、生活者と企業の間をつなぎ、双方向の理解を深めるAIを指す。感情とデータの視点で生活者を深く理解し、そこに企業の創造性をかけあわせることで、新たな市場の可能性を拓くという構想だ。

その具体例として、東京ドームシティ内のアミューズメント施設「ASOBono!(アソボーノ)」での取り組みが紹介された。同施設では、来場した子供たちの生の声を収集することが困難という課題を抱えていた。そこで、子どもが生成AIキャラクターと対話し、その内容と写真から「世界にひとつだけの思い出新聞」を作成するアプリを開発。これにより、子どもたちは楽しみながら自身の体験を言語化し、施設側はこれまで得られなかった貴重なVOC(顧客の声)をマーケティング資産として活用できるようになった。体験価値とエンゲージメントを高めながら、生活者と企業の距離を縮める好例である。

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この流れを受け、森氏はTBWA\HAKUHODOのChief Creative Officer細田高広氏の言葉を引用し、「ブランドがエージェントとしてお客様に寄り添う時代になっていく」と述べた。ブランドづくりは一方的な「伝達」から双方向の「対話」へと移行し、AIエージェントの設計においては、ブランドの理念や価値観を反映した「パーソナリティ・デザイン」が極めて重要になるという。

従業員・AI生活者との「対話」が新たな価値を生む

「共創」の思想は、消費者との関係構築だけでなく、従業員エンゲージメントの向上にも応用されている。従業員インタビュープログラム「ボボットウ」は、AIキャラクターが従業員一人ひとりにインタビューし、仕事へのこだわりや本音、熱量を引き出すサービスだ。これにより、従業員は内省を深め、マネジメント層はアンケートでは得られない定性的なインサイトを把握できる。働き手としての生活者と企業とをつなぐ試みである。

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さらに、博報堂DYグループでは、様々なサーベイデータを基に「AIペルソナ」を生成し、社員が対話できる機能「バーチャル生活者」を開発している。森氏は、AIペルソナとの対話が、従来のグラフ分析やクロス集計では見過ごされがちなインサイトを浮かび上がらせる力を持つと語る。あるメーカーの事例では、AIペルソナとの対話を通じて、調査データの中に埋もれていた「顧客の想定外の商品の使い方」が明らかになった。これは、N=1の視点での定性分析が、データに新たな光を当てることを示している。

AI導入の罠、組織パフォーマンスの低下

一方で、森氏はAI導入がもたらす負の側面にも言及した。近年、「AIを使うと組織・チームのパフォーマンスが落ちる」という研究報告が相次いでいるという。特に、「AIが情報を収集・分析し、人間が意思決定する」という分業モデルは、パフォーマンスを著しく低下させることがわかっている。

ただし、例外も存在する。パフォーマンスが向上するケースを分析すると、そこに「熟練者」の存在が浮かび上がる。ここでいう熟練者とはAIに詳しい人材ではなく、「業務、業界、顧客に詳しい人」を指す。ドメイン知識を持つ人材がAIを使いこなすことで、初めてチームのパフォーマンスは向上するのだ。この事実は、AIを単なる自動化ツールとして導入することの危険性を示唆している。

均質化の先へ—企業が持つべき「3つのA」とは?

もう一つの脅威は、AIが生み出す「均質化社会(Homogenization)」である。誰もがAIを使うようになると、アウトプットが似通ってしまい、差別化が困難になるという問題だ。

これらの課題を乗り越えるために、企業は何を目指すべきか。森氏は、AIによる効率化「Automation(オートメーション)」と、AIによる人間の創造性の拡張「Augmentation(オーギュメンテーション)」をかけ合わせることが重要だと説く。

しかし、それだけでは十分ではない。均質化の脅威に対抗するために、最も重要になるのが3つ目の「A」である「Aspiration(アスピレーション)」、すなわち「AIとともに抱く大志」である。「そもそも御社は何をやりたいんですか、御社は何をやるための企業なんですか、ということを問わなければいけない」と森氏は語る。

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企業が自らの存在意義や目標をAI時代に向けて再定義し、その大志(Aspiration)のもとにAutomationとAugmentationを戦略的に組み合わせる。これこそが、AIエージェントがマーケティングを進化させるための要諦であると、森氏は結論づけた。

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株式会社博報堂

https://www.hakuhodo.co.jp/


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