本コラムは2026年4月1日発売予定の『THE CUSTOMER CENTRIC COMPANY 顧客基点経営 10の実践』の編著者、岩井琢磨氏をはじめ多くの企業の「顧客基点経営への変革」を支援してきたコンサルティング・ファーム顧客時間の主要メンバー5人による特別企画です。第3回は顧客時間 OMOデザイナー大西 理氏が担当します。
プロフィール
誰も幸せになっていない、あの空間のことを考えてほしい
買い物時、レジに並んでいると、「アプリをダウンロードされると本日ポイントが2倍になります」と声をかけられた。後ろにはすでに5人も並んでいる。スタッフは他の客にも笑顔で同じように伝えている。「また来るかもしれない」、そう思い、列からいったん離れ、仕方なくスマホを取り出し、ダウンロードし、会員登録を済ませてまたレジに並ぶ。あっという間に過ぎる数分間。
すでに会員登録していても悲劇は起きる。レジで会計時にいざアプリを開こうとすると、ログインできていなくて、再ログインを求められる。パスワードがわからない!その間、列の後ろの客たちの視線を背中に受け続ける。あきらめて「ログインできないので・・・」と告げる。
ようやく支払いを終えたとき、買い物における達成感はなかった。あったのは、周囲への申し訳なさと、徒労感だけだ。
アパレルショップでも同様の体験は多い。ブランドごとに異なるポイントアプリを提供する場合があるため、対象のブランドが変わるたびに別アプリに登録させられる。登録するとその場で使えるクーポンが提供されるので、ついつい登録しようとするが、通信状況によってはうまく読み取れず、レジに並ぶ列が詰まる。
こういう現実がある中、企業は利便性を掲げ「DXを推進している」と宣言する。だが、本当にそうだろうか。顧客にとって何が改善されたのか、冷静に問い直す必要がある。
この状況はもはや「体験」の押し売りではないか。そう定義した上で、「CXウォッシュ」という構造的課題を整理し、企業が向かうべき「循環型」の顧客体験モデルを考えてみたい。
「CXウォッシュ」の時代。“顧客基点” を掲げるほど、顧客が離れていくパラドックス
「グリーンウォッシュ」という言葉がある。実態を伴わないまま環境配慮を謳うマーケティングへの批判的概念だ。同様の構造が、今、顧客体験(CX)の領域でも見られるようになっている。これを「CXウォッシュ」と呼びたい。
企業は「顧客基点」を掲げ、「顧客体験」を大切にすると宣言する。しかし現場で実装されているのは、アプリのダウンロード数、メルマガの開封率、LINE公式アカウントの友だち登録数など、企業側のKPIを達成するための施策が中心だ。データ収集と短期売上の最大化が軸になっている以上、顧客を中心に置くと謳いながらも、実際の「体験」の質はその外周を回らされている状態と言っても過言ではない。