第3回「顧客体験」

本コラムは2026年4月1日発売予定の『THE CUSTOMER CENTRIC COMPANY 顧客基点経営 10の実践』の編著者、岩井琢磨氏をはじめ多くの企業の「顧客基点経営への変革」を支援してきたコンサルティング・ファーム顧客時間の主要メンバー5人による特別企画です。第3回は顧客時間 OMOデザイナー大西 理氏が担当します。

プロフィール

avatar

大西 理

顧客時間 OMO デザイナー

スマイルエックス合同会社 代表。
カタログ総合通販セシールにてEC事業立ち上げ後、デジタルマーケティング全般に従事。その後、デザイン文具総合メーカー(デザインフィル)、化粧品・健康食品通販(新日本製薬)、ファッション雑貨小売(ヌーヴ・エイ)、アパレル(オンワード/グラニフ)など複数の業界にてECを中心にデジタルマーケティング/コミュニケーション/ブランディング/CRMと幅広い領域のマネジメントを担当。2021年10月から現職にて企業のEC/マーケティング関連のビジネスを支援。2022年より顧客時間に参画。日本オムニチャネル協会フェロー・D2Cエキスパート協会理事・日本ダイレクトマーケティング学会員・文化学園大学「Eコマース論」非常勤講師。

誰も幸せになっていない、あの空間のことを考えてほしい

買い物時、レジに並んでいると、「アプリをダウンロードされると本日ポイントが2倍になります」と声をかけられた。後ろにはすでに5人も並んでいる。スタッフは他の客にも笑顔で同じように伝えている。「また来るかもしれない」、そう思い、列からいったん離れ、仕方なくスマホを取り出し、ダウンロードし、会員登録を済ませてまたレジに並ぶ。あっという間に過ぎる数分間。

すでに会員登録していても悲劇は起きる。レジで会計時にいざアプリを開こうとすると、ログインできていなくて、再ログインを求められる。パスワードがわからない!その間、列の後ろの客たちの視線を背中に受け続ける。あきらめて「ログインできないので・・・」と告げる。

ようやく支払いを終えたとき、買い物における達成感はなかった。あったのは、周囲への申し訳なさと、徒労感だけだ。

アパレルショップでも同様の体験は多い。ブランドごとに異なるポイントアプリを提供する場合があるため、対象のブランドが変わるたびに別アプリに登録させられる。登録するとその場で使えるクーポンが提供されるので、ついつい登録しようとするが、通信状況によってはうまく読み取れず、レジに並ぶ列が詰まる。

こういう現実がある中、企業は利便性を掲げ「DXを推進している」と宣言する。だが、本当にそうだろうか。顧客にとって何が改善されたのか、冷静に問い直す必要がある。

この状況はもはや「体験」の押し売りではないか。そう定義した上で、「CXウォッシュ」という構造的課題を整理し、企業が向かうべき「循環型」の顧客体験モデルを考えてみたい。

「CXウォッシュ」の時代。“顧客基点” を掲げるほど、顧客が離れていくパラドックス

「グリーンウォッシュ」という言葉がある。実態を伴わないまま環境配慮を謳うマーケティングへの批判的概念だ。同様の構造が、今、顧客体験(CX)の領域でも見られるようになっている。これを「CXウォッシュ」と呼びたい。

企業は「顧客基点」を掲げ、「顧客体験」を大切にすると宣言する。しかし現場で実装されているのは、アプリのダウンロード数、メルマガの開封率、LINE公式アカウントの友だち登録数など、企業側のKPIを達成するための施策が中心だ。データ収集と短期売上の最大化が軸になっている以上、顧客を中心に置くと謳いながらも、実際の「体験」の質はその外周を回らされている状態と言っても過言ではない。

次のページ
1 2 3 4 5
CX-DesignのRe-Design 〜顧客体験の思考法〜
岩井 琢磨(顧客時間 代表取締役)

1993年博報堂DYグループに入社。インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクター、ブランドコンサルタントとしての企業再生プロジェクト参画を経て、Chief Project Manager。2018年9月株式会社顧客時間を設立。共同CEO代表取締役に就任。Head of Managementとして、顧客時間に参画する多様なスペシャリストと共に、製造業・流通サービス業・金融業などにおけるCX変革プロジェクト・事業開発プロジェクトの設計・支援を行っている。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。内田和成研究室所属。2025年1月より株式会社 AgeWellJapan 社外取締役。

岩井 琢磨(顧客時間 代表取締役)

1993年博報堂DYグループに入社。インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクター、ブランドコンサルタントとしての企業再生プロジェクト参画を経て、Chief Project Manager。2018年9月株式会社顧客時間を設立。共同CEO代表取締役に就任。Head of Managementとして、顧客時間に参画する多様なスペシャリストと共に、製造業・流通サービス業・金融業などにおけるCX変革プロジェクト・事業開発プロジェクトの設計・支援を行っている。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。内田和成研究室所属。2025年1月より株式会社 AgeWellJapan 社外取締役。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

「CX-DesignのRe-Design 〜顧客体験の思考法〜」バックナンバー

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ