本コラムは2026年4月1日発売予定の『THE CUSTOMER CENTRIC COMPANY 顧客基点経営 10の実践』の編著者、岩井琢磨氏をはじめ多くの企業の「顧客基点経営への変革」を支援してきたコンサルティング・ファーム顧客時間の主要メンバー5人による特別企画です。第4回は 顧客時間Evangelist 喜多羅 滋夫氏が担当します。
「組織の文化改革」イノベーションのジレンマ
先日、現役CIOの方々と、最新の生成AIがもたらす成果について話していた時のことです。「システムのコーディングが、こんな簡単にできるようになった」「AIがチームを組んで課題対応をしてくれて、私がやることってYES、NOを言うぐらいしか残ってないんですよ」「AI駆動開発を活用したら、ユーザーとの数回のキャッチボールでアプリを導入できました」
皆さんが、すばらしい先進的な取り組みについて感動を伝えられる中で、あるCIOの言葉が耳に残りました。「でもみんな、あんまり何か作ろうとしないんですよね。私なんか作りたいものたくさんあるのに」
この議論に強い既視感を覚えたのは、私だけではないはずです。思い返せば、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉があちこちで語られるようになった時にも、同じような議論がありました。これまで、数多くの新しいシステムサービスやデータベース・BIに大量の投資がなされてきました。しかしながら、実際に社内の業務プロセスや顧客との関係が劇的に進化した企業はどれだけあるでしょうか。顧客理解が進んで、競合優位性を確立したと胸を張れる組織は、少数ではないでしょうか。
DXから生成AIへと論点が移る中で、ひと握りの企業だけが成功事例を積み重ねている理由は何でしょうか? 私の経験上、その根幹には組織文化が大きく関わっています。本稿では、組織において自発的な改革が進まない原因を読み解きながら、このイノベーションのジレンマを考察したいと思います。
経営と現場にあるギャップ
日本においてデジタルトランスフォーメーションによる改革が広く知れ渡ったのは、2018年の経済産業省の「DXレポート」がきっかけでした。厳しい経営環境の中での生産性向上や新たな事業創出を求めて、多くの企業の経営が自社におけるDX推進をアジェンダとして掲げ始めました。しかしながらその多くは、「デジタルを活用して何か革新的なことをやれ」「データ活用で生産性を上げろ」といった抽象度の高いものが多かったと感じます。また当時は「何から手を付ければいいでしょうか?」「参考になる事例はないでしょうか?」という質問を受けることもよくありました。