継続するカイゼンがブランドを強くする──チェコで実現したトヨタ8年間のPR戦略

企業の広報活動では、新しいキャンペーンや話題性の高い施策に注目が集まりがちです。しかし海外の優れたPR事例を見ていくと、むしろ「長く続くコミュニケーション」がブランドの信頼を形づくっていることに気づかされます。今回紹介するのは、中央ヨーロッパのチェコで展開されたトヨタ自動車のPR活動です。大きな話題を一度だけ生み出すのではなく、8年という時間をかけてブランドの存在感と信頼を築き上げていった取り組みです。

この活動を支えたのは、プラハに拠点を置くPRエージェンシーSHRTCUTとの長期的なパートナーシップでした。2017年に協働が始まった当時、トヨタはチェコの自動車販売ランキングで15位に位置していました。しかし2025年には国内販売で2位にまで躍進しています。この変化は市場環境の影響だけでなく、長期的に積み重ねられたコミュニケーション戦略の成果でもありました。

変化のタイミングを見極めたPR戦略

このパートナーシップが始まった時期は、ヨーロッパの自動車市場が大きく転換するタイミングでもありました。長く主流だったディーゼル車の人気が低下し、環境問題が社会的な関心の中心になりつつありました。同時に、ハイブリッド技術が一般消費者に広く理解され始める時期でもありました。

トヨタは世界的にはハイブリッド車のリーダーとして知られていましたが、その価値をチェコの消費者にどのように伝えるかは簡単な課題ではありませんでした。そこでSHRTCUTが採用したのは、製品紹介にとどまらない幅広いコミュニケーションでした。技術や環境だけでなく、スポーツ、文化、地域社会、製造拠点といった複数のテーマを通じて、トヨタというブランドを生活に近い存在として位置づけていきました。

この戦略の特徴は、日々の広報活動を「継続的な改善」のプロセスとして設計した点にあります。トヨタの企業哲学であるカイゼン(継続的改善)をPRの実務にも取り入れ、小さな改善を積み重ねながらメディアとの関係を築いていきました。

トヨタのコリン工場生産ライン(crest社提供)

数字が示す8年間のコミュニケーションの積み重ね

このアプローチは、メディア露出の規模にも表れています。2017年から2025年までに、オンライン、新聞、テレビ、ラジオなどを含めたメディア掲載は約19万件に達しました。オンラインメディアだけでも10万件を超える記事が掲載され、総リーチは130億人以上と推計されています。重要なのは単なる量ではなく、その多くがポジティブまたは中立的な内容だったことです。これはブランドへの長期的な信頼関係が形成されていたことを示しています。

次のページ
1 2
世界の潮流を事例から解説!PRのネクストトレンド
岩澤康一(Key Message International代表取締役)

国内/外資のファームでデジタル、グローバルな広報・PR経験を積んだコミュニケーションの専門家。TBSワシントン支局に勤務後、在シリア日本大使館広報文化担当官、日本国際問題研究所広報部長などを歴任。米アメリカン大学より国際平和紛争解決法修士号、早稲田大学よりジャーナリズム修士号取得。ハーバード・ビジネス・スクールでAIを学ぶ。日本広報学会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教員。弘前大学客員教員。著書に「世界標準の説明力 頭のいい説明には『型』がある」(SBクリエイティブ)。

岩澤康一(Key Message International代表取締役)

国内/外資のファームでデジタル、グローバルな広報・PR経験を積んだコミュニケーションの専門家。TBSワシントン支局に勤務後、在シリア日本大使館広報文化担当官、日本国際問題研究所広報部長などを歴任。米アメリカン大学より国際平和紛争解決法修士号、早稲田大学よりジャーナリズム修士号取得。ハーバード・ビジネス・スクールでAIを学ぶ。日本広報学会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教員。弘前大学客員教員。著書に「世界標準の説明力 頭のいい説明には『型』がある」(SBクリエイティブ)。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム