日本にも影響を及ぼしている中国の微小粒子状物質「PM2.5」。これは単一の物質ではなく、炭素やNOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、金属など、多様な物質が混合したものだ。発生源は火山などの自然活動の場合もあるが、工場の排煙やディーゼル車の排気ガスなどの影響が大きい。
そんな中国の大気汚染を抑えることが期待されているのが、EV(電気自動車)だ。中国の電池王と呼ばれるBYDの社長、王伝福(ワン・チャンフー)氏は、大気汚染を追い風に、排気ガスの出ないEVタクシーや電動バスの普及を推進する。
BYD社が注目を集めたのはウォーレン・バフェットが投資先に選んだことに始まる。2009年頃から世界中の注目を集めているが、2012年には深圳市でBYD社のEVタクシーが衝突・炎上事故を起こし、その勢いが殺がれるかとも思われた。
しかし、今年に入って、王伝福氏は、香港で電気自動車のタクシーを走らせる計画を発表。「ディーゼル・エンジンのバスとLPGタクシーすべてを電気自動車にすれば、大気ガス中の汚染物質を56%も削減できる」と積極姿勢を貫く。
「香港は、環境にやさしいグリーンな交通を推進してきた。EV化はコスト削減だけでなく、空気をきれいにする点で社会にとって大きなインパクトをもっている」(王伝福氏)
公共交通は、香港の主要な大気汚染源であり、1万8000台のLPGタクシーと1万2000台のディーゼルバスをすべて電気自動車に変えれば、80万台の自家用車の排気ガスの削減に匹敵する。加えて、原油価格の高騰から、電気自動車はコスト削減にもつながると期待されている(BYDは11万香港ドルの削減になると試算)。香港で電気自動車に走らせるために、BYDは、愛民邨(Oi Man Estate)、石圍角(Shek Wai Kok Estate)、黃大仙(Wong Tai Sin)という、3つのパートナーと連携して充電ステーションを配備していく。
ただ、事故などで性能が心配されているのがBYDのバッテリーだ。しかし、同社は、4000回の充電でも75%のエネルギー密度を維持できる安定した性能をもつと性能をPR。これは、タクシーに求められる100万㎞の走行距離に充分耐えられる値とも。また、2010年から中国の深圳市で実証実験を重ねており、走行距離が30万㎞を超えたタクシーや11万㎞を超えたバスもあると報告している。
BYDは中国各地はもちろん、オランダ、アメリカ、デンマーク、コロンビアなど世界中で電気自動車の事業に乗り出しており、コロンビアの首都ボゴダでは年内に49台のタクシーが走りはじめるという。
大気汚染を追い風に普及推進をはかるBYDに対して、気になるのは日本メーカーの動きだ。今年2月、日産自動車の欧州法人、欧州日産は、日産リーフの世界累計販売台数が5万台を突破したことを発表。2010年末に日米で発売され、現在では、欧州17か国で販売されている。欧州での累計販売台数は、7000台で、日本やアメリカに及ばないが、エコ意識の高い欧州のドライバーはリーフに高い満足度を示しているという。
ただ、2010年の発売当初期待されたほど販売台数の伸びに勢いがないのも事実だ。今後BYDが世界で販売攻勢をかければ、世界のEV市場における競争が激しくなることが予想される。日産リーフや三菱i-MiEVなど、日本メーカーの健闘に期待したいが、中国でBYDのEVが普及し、大気汚染が抑えられるなら、BYDの健闘も歓迎したい。
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