メディア「組み合わせ」議論の落とし穴
メディア。広告の世界においてこの言葉は常に不可分である。そして非常に曖昧(あいまい)で多義的でもあり、この言葉を発した人とそれを聞いた人の間で共通のイメージを思い浮かべることすらできないかもしれない。ある人はいわゆるマス4媒体のことを思い浮かべるだろう。ウィキペディア的な定義で言えば「メディア:情報やデータを蓄積したり届けたりするためにするツール」ともあるので、記録媒体、メモリカードやDVDもメディアである。
一方、数年前より「メディアニュートラル」という言葉が広告業界を席巻した。マス4媒体偏重をやめ、あらゆるメディアを使いこなそうというスローガンでもあった。しかしながら、メディア、という言葉ほど便利なものはない。クロスメディアという言葉を使えば、複数メディアを相互に関連付けて使いこなしているように思えるし、それによってマスメディアの効果への懸念や広告主の多様化する依頼に答えることができるかのように思えた。しかしそこには落とし穴があり、結局は『既存』メディアの『組み合わせ』に過ぎず、それが適切にターゲットとする人々と商品を結びつけるかどうかという本質まではたどり着けなかった。その背景には、やはり「まずメディアありき」という無自覚なまでの思考回路にあるに違いない。
私が行うプロジェクトでは、人々と商品の間で「何がメディアとなるのか」という視点で考える機会が多い。場合によっては、メディアとなるものを開発しなければならないこともある。インターネットであればそれ自体をメディアと考えることはなく、その上に生み出すサイトやアプリケーションのようなものが「メディア」であり、あるいは、広告主企業の営業マンが配るリーフレットがメディアとしてどう機能するかを考えることもある。広告主の課題、その多くはコミュニケーションのギャップであり、そこには複数の登場人物が存在する。その時に「メディエイト(媒介する=とりもつ)」してくれるものは何か? という視点で企画をしないと、本当の意味で、「メディア」をうまく活用することはできないだろう。
「高広伯彦の“メディアと広告”概論」バックナンバー
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