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目指すは「ソーシャルメディアのアベンジャーズ」、電通「ナカノヒト」が始動

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すべての広告がソーシャルメディア上で語られるようになった

今や私たちの生活において、ソーシャルメディアに触れることなく過ごすことはほぼない、と言っても過言ではないだろう。テレビのニュース番組は、ソーシャルメディアにおける著名人の発言や話題の映像を取り上げる。渋谷のみで展開されたOOHもTwitterにアップされれば、その日のうちに全国の人に知られることになる。また、新聞を購読していない人でも、Twitterのタイムラインで話題の新聞広告を見ることができる。「もうどう広告したらいいのかわからないので。」というキャッチフレーズで、6タイプの広告をダウンロードできるようにした金鳥の広告(5月30日出稿)は、新聞広告でありながらSNSを起点に話題を集めたことは、まだ記憶に新しい。

「バズ動画やTwitter、インスタグラムなどデジタル上で展開される広告だけが、もはやソーシャルメディア広告とは言えなくなってきています。テレビCMも、新聞広告も、OOHも、いまや広告はソーシャルメディア上で語られるようになっているのですから。そういう意味で、すべての広告クリエイティブは、ソーシャルメディアでの反応を計算して企画するべきだと思います」と話すのは、電通 クリエーティブディレクター/コピーライター 橋口幸生さん。

今年5月、橋口さんは電通社内で部署や役職を横断したチーム「ナカノヒト」を結成した。その名が示すように、橋口さんが声をかけたメンバーは「ソーシャルメディアが得意な人」。このチームを結成するに至った経緯を、橋口さんは次のように話す。

「すべての広告がソーシャルメディア上で語られるようになっているにもかかわらず、広告会社の提案はまだそこに至っていないと感じていました。例えば新聞広告を作るとなると、クライアントも作り手も『新聞広告を読む人』を意識して広告を作ってしまう。実際にそれを見るのは『新聞広告を読む人』だけではないと肌感覚でわかっていても、なかなかその一線を越えられない。またデジタル広告となれば、デジタルのことばかり考えて、その中で企画を終始してしまったり。ともすると、インスタの提案をしている人が実はインスタをやっていない、ということも。こうした現実を踏まえ、現在のようなソーシャルメディア時代に対応するにはデジタル広告の専門家だけでは不十分で、普段からソーシャルメディアを使い慣れた人こそ企画に関わるべきではないかと思い、会社に提案しました」

「ナカノヒト」ロゴ

メンバーは橋口さんのほか、OOHメディアやイベントの企画から運営までを手がけるクリエーティブディレクター 金坂基文さん、橋口さんと組んだ「鬼平犯科帳」25周年ポスターなど幅広い領域のビジュアルを手がけるアートディレクター 前田大作さん、「ンダモシタン小林」をはじめ、話題のWebムービーを手がけるCMプランナー 村田俊平さん、映画や舞台のプロデューサーも務めるコピーライター 阿部広太郎さん、趣味で始めた美容系インスタが3万人のインスタフォロワーを持つコミュニケーションプランナー 長谷川輝波さん、そして、Twitterアカウント「実家が全焼したサノ」として知られるビジネスプロデューサー 佐野光さんの7名だ。

電通 クリエーティブディレクター/コピーライター 橋口幸生さん

 

クリエーティブディレクター 金坂基文さん

 

アートディレクター 前田大作さん

 

CMプランナー 村田俊平さん

 

コピーライター 阿部広太郎さん

 

コミュニケーションプランナー 長谷川輝波さん

 

ビジネスプロデューサー 佐野光さん

 

最初に橋口さんから声をかけられた阿部さんは、「勝手に妄想していたことですが、もしも電通社員全員がソーシャルメディアを活用するようになったら、会社が変わるのではないかと思ったことがあるんです」と話す。「というのも、会社の中で働いている人の思いが社会にうまく伝わっていないのがもどかしいなと感じでいて。これまで会社としてあまり伝えられていなかった部分を発信していく上でも、このチームが入り口になるといいなと思っています」。

佐野さんは「これまでは企業の人格に、個人が支えられてきました。しかしこれからの時代、ソーシャルメディアを活用する個人が企業の人格を形成していく、それが自然な流れになるのではないかと僕は思っているので、このチームでそういう部分を牽引できたらと考えています」と話す。

目指すのは、「ソーシャルメディアのアベンジャーズ」だ。

「アベンジャーズ(人類を守るため、最強ヒーローたちが集結した究極のチーム)はチームで戦うこともあれば、それぞれが好きなことをやったり、時には仲間割れ、脱退、再加入することもある。チームだけどゆるやかに繋がっていて、必要があれば力を合わせる、得意な人がいたらその人に任せるなど、その感じが今の時代の仕事の進め方に合っている。僕らもいい意味で緩やかに繋がっていこうと考えています」(橋口さん)。

チームで得た知見や事例研究を発信する

「ナカノヒト」メンバーが、このチームで実現していきたいことは様々だ。

外出自粛で厳しい状況に陥ったOOHだが、その領域を担当する金坂さんは「外に出ることが価値になっている今、OOHとソーシャルメディアを活用してメッセージを発信すれば話題になることは必至です。もちろんそれに限らず、さまざまな取り組みが望まれているチームなので、自分ができることはどんどん取り組んでいきたい」と話す。

「このチームであれば、難しい案件や予算が潤沢ではないものをうまく料理して、世の中で話題にしていくことができると思うので、僕は動画の領域で自分の力を発揮していきたい」と、村田さん。

自身がインスタグラマーとして活動する長谷川さんは「一般的なインスタグラム運用マニュアルに書かれていないようなことに取り組んでみたい」と話す。「インスタグラムはいわば現代の雑誌のようなもの。従来の雑誌はトレンドを作ったり、ライフスタイルを提案するものでしたが、インスタの場合、フォロワーやいいね!、エンゲージメントがどれくらい増えたかという反響を元にコンテンツを作っていくところがあるので、世の中に向けて広告を作ってきたクリエイターにとって親和性の高い領域。将来的には、電通発のインスタメディアも作ってみたいです」。

しかし、一方で「インスタグラムの活用を希望するクライアントは増えているものの、リファレンスとなる好事例が世の中にほとんど出ていません。さらに、専門知識が共有されていなかったり、メディア特性がきちんと理解されていないことも影響して、好き嫌いの話になりがちです。また、ソーシャルメディアをブランドの価値向上に使うのか、売上アップに使うのか、悩んでいるクライアントも少なくない」(橋口さん)という。

こうした状況を変えるべく、このチームでは企画やメディアの提案のみならず、事例研究も進め、各人がソーシャルメディアの知見や知識を深めていくことを目指す。また、「ソーシャルメディアによって広告の見られ方が大きく変わった現在、広告会社もこれまで通りのやり方だけでは通用しなくなっています。電通という会社に集まった知見や学びを自分たちの中だけで閉じるのではなく、これからはもっと世の中に開いていくべきではないか」(阿部さん)という考えから、社内外での講演やワークショップも実践していく予定だ。

SNSがこれだけ世の中に広まっても冒頭で挙げた金鳥のような思い切った広告を展開するには、クライアントはもちろん、企画やメディアを提案する広告会社や作り手の意識を大きく変えていく必要がある。「このチームで活動することで、こうした現状を少しでも変えていけたらと考えています」(橋口さん)。