市場で劣勢を強いられていた「アリエール」を担当した音部氏。資源が限られるなか、「除菌」訴求に望みを託します。ところが、市場調査では期待とは真逆の結果に。それでも除菌で突破を図るに至った一筋の光明とは……。
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コマーシャルイノベーションに舵を切る
この状況で、ブランドチームがなすべきことは明らかです。唯一の武器だった価格は使えず、「アタックよりも安い」という最大の購入理由は失われました。山積みと価格で売り込む店頭のプッシュではなく、ベネフィットにより消費者を誘引するプルを喚起しなくてはなりません。価格と同じくらい魅力的で、アタックからシェアを取り返せるくらい強力なベネフィットを開発するのです。
研究開発や製造の部門と、連日の濃密な会議を経て「除菌」であれば半年で製品開発と量産のめどが立つと分かりました。何箇所か綱渡りが予想されましたが、ほかにめぼしい選択肢もなく「除菌」に希望が託されることになりました。すぐに新商品のコンセプトボードを開発し、消費者調査です。コンセプトボードとは、ターゲット消費者とベネフィットの想定をもとに、商品特徴やパッケージ、価格などを記した1枚の紙です。消費者に見せ、反応を観察することで商品の魅力度を測り、売り上げを予測する調査などに使います。
既存の製品を大きく変更することなく、ターゲット消費者を明確にし、ベネフィットの訴求を強化することで、売り上げ増加を目指すイノベーションのことをコマーシャルイノベーションと呼びます。今回のように製品やパッケージの一部を変更して新商品とすることもあれば、製品を変えずにコミュニケーション主体の新しい訴求をすることもあります。
いずれにしても、製品開発やそれに伴う工場の変更が小さいので、迅速に市場導入できます。ブランドによっては、ベネフィット訴求に使っていない製品機能を備えていることがありますが、今回の「除菌」もアリエールの現行製品に副次的に備わっている機能でした。ブランドの埋蔵資源ともいえる除菌を掘り起こし、コマーシャルイノベーションの起点としたのです。
32人中31人が除菌に「ノー」
初回のFGI(フォーカスグループインタビュー)は惨憺たるものでした。当時は1回のインタビューに8人の被験者を招き、アリエールユーザーやアタックユーザーなどに分けられた4グループ、32人の消費者が「除菌」のコンセプトボードを評価しました。そして、「除菌」に購入意向を示したのは1人だけで、31人はいらないと答えました。
