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PRアワードへの応募は、広報・PR活動の健康診断になる

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2022年度「PRアワードグランプリ」の締め切り(10月25日17時)が迫ってきた。エントリーに向けての検討もいよいよ最終段階。PRアワードグランプリにエントリーする、ということは入賞を目指すことはもちろん、他にもさまざまな意義がある。審査員長の本田哲也氏(本田事務所代表)と、今年から新たに審査団に加わった、伊東由理氏(Zホールディングス 執行役員 広報統括部長)、矢嶋聡氏(メルカリ PRチーム ディレクター/グループ広報責任者)の3人に語ってもらった。

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エントリーシートを書くことは広報の仕事の言語化に役立つ

伊東 矢嶋さんがグループ広報責任者を務められているメルカリさんは去年PRアワードのブロンズを受賞されていますが、賞を取る前と取った後で、何か変化はありましたか?

矢嶋 もともとメルカリはPRに対して理解はあるので、目立って大きな変化はありません。ただ社員全員がPRの価値を理解しているわけではないので、PRアワードグランプリなどで第三者的に評価をいただけることは、大きなひとつの成果として認められる部分ではあります。

現場の視点でいうと、自分たちでやっていることはそれほど新しいことでもないし、「普通だよね」と過小評価しがちな傾向があります。それがPRアワードにエントリーすることで、自分たちが普段やっていることをちゃんと言語化してプレゼンテーションする機会になる。すなわち、きちんとその取り組みの意義や価値を改めて可視化・言語化して、しかも結果的に評価していただけたということが、担当者自身も自信になりましたし、モチベーションアップになるという効果がありました。

審査員の矢嶋聡氏(メルカリ PRチーム ディレクター/グループ広報責任者)。

伊東 そこは大きいですよね。自分たちの仕事を改めて内省し、言語化して、整理をしていくプロセス自体にものすごく価値があると思います。今回改めて良いな、と思ったのが、PRアワードグランプリは過去のエントリーシートをWebサイトで公開していることです。この公開が広報に携わる人にとって大きな価値だと思っています。

エントリーした会社が何を課題として設定して、どう仕掛けているか、構造的にプロセスが見えるわけですね。これからエントリーしようと思っている人、もしくはエントリーするかどうかは別としても、広報の引き出しを広げたい人にとっても、非常に価値があると思います。

審査員の伊東由理氏(Zホールディングス 執行役員 広報統括部長)。

本田 企業にとって言語化の価値が上がっています。PRアワードグランプリでも無形のもの(サービスや活動)のエントリーもどんどん増えています。まさに矢嶋さんのいるメルカリもそうですね。

無形のもの(サービスや活動)をどういう風に伝えるか。なかなか広告クリエイティブだけで解決できるものでもないでしょう。総合的な視点から、トップのコミットメントを含めて、広報がどう伝えるか、という言語化能力が問われています。

これはプレスリリースを上手に書きなさいということでもないですね。さまざまな活動の背景となる文脈も含めて、言語化したひとつのコンテンツをつくるつもりで、PRアワードグランプリのエントリーシートを書く。そうすると、改めてコミュニケーションでやってきたことを整理できると皆さんおっしゃるんです。そういう意味づけもPRアワードグランプリでは大事かもしれないですね。

継続性や企業らしさのある広報活動の重要性

矢嶋 エントリーをどのタイミングでするのか、広報の仕事だと難しい場合もあると思いますが、別に発表で環境が変わったりメディア露出したりということではなくても、今取り組んでいる真っ只中のものをエントリーするのもいいと思います。PRアワードグランプリで賞を取ることで活動をドライブするきっかけになることもあると思いますし。

個人的に一発の打ち上げ花火では社会のパーセプションは変わらないと思っています。そういう意味だと、去年グランプリを受賞した「まてりある’s eye」(国立研究開発法人 物質・材料研究機構)は、7年間積み上げて、それがプラットフォームになり、それを元にイベントを実施したり、集客と教育に活かしたり、本当にオーセンティシティの最たるもので、当事者の気概を感じました。

 

企業の広報は「今やっていることは何に繋がるんだろう」と手応えを感じづらいときもあると思います。「まてりある’s eye」のような事例がもっと出てくると、「続けていくことでこんなに大きいものになるんだ」と勇気を与えてくれると思います。今結果が出ていなくてもいいから、こういうことにトライしているんだというプロセスでもいいので、ぜひエントリーしてもらいたいです。

伊東 「まてりある’s eye」の事例は本当に素晴らしいですね。多くの事業会社の広報の方に勇気と気づき、あと刺激をくれると思います。

矢嶋 「まてりある’s eye」のような取り組みは短期的なROIで見たら絶対に見合うものではないですよね。継続してやっていくからこそ、ファンが増えて、それを応援することで大きなうねりになっていく、ある種そこに投資し続けた結果だと思います。相当な覚悟がないとできないですね。こういう事例をもっと見たいですね。

本田 これは前の鼎談でも触れたのですが、PRアワードグランプリは過去1年以内に始まったキャンペーンでなければ対象にならないのではという誤解がまだあります。

もちろん、長くやっているからというだけでは評価しませんが、オーセンティシティという観点からは継続性も重要な要素です。一見地味に見えても、「その企業らしい継続性」を評価していくので、どんどんエントリーしてもらいたいですね。

PRアワードのエントリーは広報活動のKPIとして機能する

矢嶋 PRアワードグランプリにエントリーするのがとっても大事だと思うのは、広報の価値を社内外に対して言語化して伝えるということです。自社のプロダクトが記事になっても、たまたま商材が良かったからとか、タイミングが良かったからと誤解されることがあります。なぜこれをやったのか、こういうチェックの観点でこんなアプローチを取ったとか、ちゃんと言語化しないと、広報は成果を矮小化されやすいところなんです。

事業会社のエントリーは事例を外に発信するという意味でもまだまだ少ない気がします。メルカリはオープンにさらけ出しているんですが、事業会社も外に発信していかないと業界全体がレベルアップしていかないと思います。

もっといろんな会社がさらけ出してほしい想いもあり、ぜひ、そこは共有してもらいたいと思います。

伊東 PRアワードグランプリにエントリーができるのかどうかを、例えば、自分たちの活動の健康診断の軸にする、というのもありますよね。書かなければいけないリリースもある、答えなければいけない問い合わせもある、毎日忙しくしている広報さんも少なくないと思います。

正直言えば、全部の仕事が社会の文脈を読んで、自分の意思で仕掛けている案件なのかというと、そうじゃないものもありますよね。そんな中でも、自信を持って、PRアワードに応募したいと思えるくらいの案件をひとつでも2つでも生み出せたか、そんな健康診断のように、PRアワードグランプリを使う、というのもありますよね。

本田 矢嶋さんの話は、PRアワードグランプリが「外部的なKPI」の意味も持つという話だと思います。そもそも広報活動が何たるかの理解が、社内でも残念ながらまだまだ足りないわけです。そうすると社内で一生懸命アピールするのも限界があるので、第三者のお墨付きのようなものをもらうことはとても大事です。広報は仕事として、企業の価値と文脈を考えたり、いろんなリレーションを駆使したりするわけだから、PRアワードグランプリのエントリーをそういう風に考えるといいかもしれませんね。

矢嶋 今回、審査は初めてなので緊張しています。単発的な打ち上げ花火みたいなものより、地味でもいいから、ちゃんと丹念に意思を持って継続的に実行しているエントリーに光を当てたいです。私は事業会社の立場なので、継続してやることの意義についてはすごく共感します。そういうところをしっかり第三者的に評価をすることで、 継続的に、意識的に仕事に携わる人たちがエンパワーされていく部分があると思っています。

伊東 私はどんなエントリーが来るんだろう、とワクワクしています。「これをやることが自分たちにとっても、社会にとっても意味がある」、そんな強い意思を感じられるような取り組みに出会えることが楽しみです。その仕掛けは小さくてもいいと思います。強い意思や信念があって、継続しているような案件を見てみたいと思います。

本田 今日の結論は、PRアワードグランプリへのエントリーは企業広報の「健康診断」。広報部門の成果というだけではなく、皆さんの企業が、社会と向き合って自分たちらしい活動ができているかどうか。それが第三者的に評価される、貴重な場でもあると思います。エントリーを楽しみにしています。
 

本田哲也(ほんだ・てつや)
株式会社 本田事務所代表

「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された日本を代表するPR専門家。世界的なアワード「PRWeek Awards 2015」にて「PR Professional of the Year」を受賞している。1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、スピンオフのかたちでブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』など著作多数。国連機関や外務省のアドバイザー、Jリーグのマーケティング委員などを歴任。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。 今年度よりPRアワードグランプリ審査員長。

 

伊東由理(いとう・ゆり)
Zホールディングス
執行役員 広報統括部長
LINE コーポレートコミュニケーション室 副室長

2003年早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。広報部長、広報ブランド推進室長などを経て、2019年11月にヤフーに転じ、コーポレートコミュニケーション本部長に就任。2020年10月よりZホールディングス執行役員、2021年10月よりLINE コーポレートコミュニケーション室 副室長も兼任する。

 

矢嶋聡(やじま・さとし)
メルカリ 
PRチーム ディレクター
グループ広報責任者

2000年に早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、ネットベンチャーの立ち上げ、留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン入社。2013年4月、LINEに商号変更を経て、2014年1月にLINEマーケティングコミュニケーション室室長を務める。2017年10月メルカリ入社、現職。